島野喜三

 ただいま連載中。シマノといえば自転車コンポーネントの大メーカー。自転車といえばパナソニックでも、ブリジストンでも、トレックでもシマノの変速機やブレーキがついている。多くのPCがどれでも心臓部にはインテルのCPUを搭載しているようなものだ。ここまでシマノを世界的なパーツメーカーに押し上げるのに際し、アメリカでの市場を開拓した島野善三氏のお話である。70年代になってBMXがアメリカで生まれ大ブームになり、そこから生まれたMTBの進化を共にしてパーツ開発をほぼ独占してメーカーとしての地位を固めたといって良いだろう。でも今回の連載、読んでいていまいちおもしろくない。

シマノの歴史といえばこの本が出版されている。

シマノ 世界を制した自転車パーツ

シマノ 世界を制した自転車パーツ

 
島野喜三氏の話はこの本に語られる所と重なる。しかし大きく違うのは日経の連載ではビジネスの成功物語が語られているのに対して、この本では自転車というペダルを回して前進する単純きわまりない(ように見える)乗り物に込められた機械製造業者の工夫と、それを選手に伝えてより優れたものに進歩させるメカニック、そして営業マン達の物語が語られていることだ。私もロードレーサーに興味を持ちだしてから購入したチネリのパーツ(これはシマノではなくイタリアのカンパニョーロだが)の操作感が昔乗っていたランドナーとは雲泥の差であったことに驚いた。ギアの歯の一枚一枚を異なった形状に刻んで変速性能を高める話とか、ブレーキレバーに変速機能を組み込んでしまうSTIの発明とかとても興味深い。ランス・アームストロングに使わせるためだけのペダルを製作するために生産ラインを止めて特製のバネを作る話など「プロジェクトX」の世界なのである。メカオタクにはたまらない。


 ランス・アームストロングシマノのパーツを駆ってツール・ド・フランスを制したのが1999年。今年も7連覇に向けて爆走中だ。ツールに勝てるパーツを作るというのがシマノの誇りなのだ。メカを操るときそのメカに込められた技術の歴史を知ることで操作の味わいも一段と増すというものだ。


 やはり機械屋にはビジネスだけではなく機械自体の事を語ってほしかったと思う。