新聞記事の表と裏

 イスラエルシャロン首相が脳卒中で倒れ復帰は困難な情勢だ。シャロン首相が意識を失う直前にインタビューに応えた日経の記事が興味深かった。

 シャロン首相は先月に軽い脳卒中で倒れ入院したというニュースが流れた所だったが日経の1月5日朝刊には元気そうな写真と共に首相へのインタビューが掲載された。

舌なめらかに一時間超、脳卒中の後遺症感じさせず

 というタイトルの元でイスラエルの政策とパレスチナ、イランとの関係について語ったと報じられていた。これを読んで彼の回復ぶりに驚いたのは私だけではなかっただろう。

 しかしその日の昼頃には再びシャロン倒れるの方が流れ、再入院、緊急手術が行われたことを報ずる1月6日の朝刊では再びインタビューの模様が掲載された。しかし今回は論調はがらりと変わり、インタビューの時点ですでにシャロン氏の衰えが明らかだったことを強調していた。

自伝にサイン、大きくはみ出した

 とか、記者の質問に対しても傍らの補佐官に解答を求めないと答えられなかったシーンも描写されている。

 この書きぶりの変わりかたには驚いた。1月5日の時点ではシャロン首相が健在ぶりを世界にアピールするためにあえて無理をして1時間以上のインタビューに答えたのだろう。そして日経もその意図に応えて首相の健康不安には触れない記事にしたものと思われる。しかし再び病状が悪化した時点で政界復帰は無理との観測が流れた時点で日経もシャロン首相の政治的意図よりも健康状態の方がニュースの価値があるとして記事のトーンを変えたのだろう。

 新聞記事のトーンが一夜にして変わることは珍しくない。私は必ずしも日経の豹変ぶりを非難する訳でもない。イスラエルにとっては遠い外国の新聞社が無責任に中東情勢のキーパーソンの健康状態について迂闊な記事を流すことはできなかっただろう。ただ日経もシャロンの政治生命を見限った、ということがあからさまに見えたことでメディアの非情さを改めて知ったのだ。