小松左京と高橋和己

 すでに一月以上前になるが私の履歴書小松左京氏の連載があった。彼は日本のSF作家の先駆けであると共に関西人のおもしろさを体現する文化人でもある。小松市は旧制第三高校から京大文学部に進み、そこで作家集団をつくって互いに切磋琢磨していた。その中に高橋和己がいた。小松氏にとっては大いなる影響を与えた友人だったようだ。「高橋和己については書きたいことがたくさんある」と述べられていた。

 小松氏が大学卒業後、家業の工場経営を手伝いながら細々と執筆を続けていた頃の話だ。

高橋和己に「漫才の台本を書くことにした」と手紙で伝えると、はがきが届いた。
たった一行、「君は文学の志を失ったのか」と書いてあった。

 親友からの簡潔で厳しい批評はとても堪えたのだろう。しかしのちにSF作家として成功した小松左京はその作品を親友の眼前にたたきつけることはできなかった。高橋和己は癌で若くしてなくなっていた。おそらく小松氏は高橋和己からの批判を十字架のように背負って、それに応えることで作家としての自分を律してきたのかもしれない。

 私が大学に入って高橋和己の名前を知った時にはすでに彼はこの世にはいなかった。ひいきの作家を見つけたらとことん読むたちなので彼の作品はほぼ全て読んで、いずれも大きな感銘を受けた。邪宗門なんかは特に気に入っていた。今改めて読み直して、自分の感性が年月を経てどう変わったかを確かめてみたいものだ。