小さな脳、優れた脳

昆虫―驚異の微小脳 (中公新書)

昆虫―驚異の微小脳 (中公新書)

 昆虫の神経系は哺乳動物に比べて小さくシンプルな神経系を有するが、飛翔などの運動能力や、光、匂いなどの環境認識能力は極めて高い。本書は昆虫の神経生理学の立場から視覚・嗅覚の情報処理に神経回路がどのように機能しているかの研究の歴史と現状を平易に解説している。私はショウジョウバエの研究をやってきたが実のところ本書で紹介されている神経生理学には無縁だった。特に神経生理学は操作が比較的容易な大型の昆虫で進んでいるので、ショウジョウバエの論文だけでは本書で紹介されている豊かな研究成果に触れることはなかった。複数の昆虫を比較することで神経回路の構造の理解が深まり、神経系の進化過程までが見えてくる。発生と分子生物学に集中してきた私にとって、本書の著者の様な研究成果に触れる機会はこれまでなかったのだ。自分の視野の狭さを反省。また本書で紹介された様な研究は流通量の多いいわゆるトップジャーナルにあらわれる機会はあまりない。限られた生物種と研究分野だけに注目してきた私にとってサイエンスの計り知れない奥深さを教えてくれる一冊だ。