幻のハエを追え!:蟹の甲羅に共生するショウジョウバエ

The Cayman Crab Fly Revisited — Phylogeny and Biology of Drosophila endobranchia

昆虫に共生するバクテリアは多いが、昆虫がその兄弟である甲殻類に共生するとは聞いたことがなかった。そんな報告が進化生物学の大御所Hampton L. Carsonによって1974年にPNASになされていた、
Three Flies and Three Islands: Parallel Evolution in Drosophila | PNAS

この論文でCarlsonは蟹に寄生する三種のショウジョウバエを記載している。そのうちの一種D. endobranchiaはカリブ海Cayman Islandsで1966年に21匹だけ捕獲されたと記されている。毎日何千匹ものショウジョウバエを経代している研究者にとっては何とも貧乏くさい話にも思えるのだが、その後の捕獲、培養の報告はなく原報の真偽と、D. endobranchiaの系統学的位置に着いては全く不明だった。

今回の著者はCarlsonの足跡を辿ってその幻のハエを探しに出かけた。しかし彼らは数々の困難に遭遇した。Carsonが報告した捕獲場所にはホテルが建設されてすでに蟹すらすんではいない。そもそも蟹の生態系すら40年前とは様変わりだったようだ。更に蟹は夜行性なので夜中に蟹を探し、そこにたかっているハエを暗闇で観察したり捕獲することになる。そんな困難を乗り越えて、ホストの蟹の生息場所を発見し、今回新たに66検体を新たに捕獲した。そしてその講堂と生態の観察に新しい知見を加え、その宝石のようなハエから貴重なDNA資料を調整して系統関係のデータを報告することが出来た。

普通の科学論文とは趣は異なり著者たちの探検隊が直面した困難と発見の喜びにふるえる様子が十分に感じられる論文。科学の原点を味わえる一本。しかしそんなおかしなハエを三種も見つけたCarlsonは偉かった。