行政刷新会議という名の人民裁判

今週末、13日の第三WGにおける話をipodに落として聞いていたが腹の立つことばかり。
情報は以下のサイトに詳しい。
http://mercury.dbcls.jp/w/index.php?FrontPage

行政刷新会議の議論に巻き返しをはかる文部科学省からコメント依頼が来たので投稿。練れていない文章で気恥ずかしく直したい衝動に駆られるがそのまま転載しておく。

文部科学省
中川正春 副大臣
後藤斎  政務官

 私は理化学研究所 発生・再生総合研究センターでグループディレクターをつとめております林茂生と申します.今回の行政刷新会議の議論を詳細に聞かせていただき科学技術政策全般について強い危機意識を持ちました.理化学研究所の事業に対しては当事者であり事務当局などを通じて意見をあげておりますのでここでは最重要と考えております科学研究費、若手人材育成(事業番号3-21 競争的資金(若手研究育成))に関してコメントさせていただきます.要点は以下の4点です.

1)大学院生、PDは日本の科学研究を支えるプロの研究者である.
2)彼らを支えているのは特別研究員制度、科学研究費制度である.
3)テニュアトラック制度はPDの出口政策として機能すると期待できる.
4)大学院生、PDへのサポートを断てば人材の最良の部分の喪失を招く

 日本に限らず欧米の科学一流国で研究を遂行しているのは大学院生とPDです.彼らは20代、30代の最も体力と活力にあふれる時期に緊張感を持って研究に取り組むことにより強力な推進力となってきました.話題になっておりますiPS研究においても当初は奈良先端大学院大学の大学院生を主体とするチームが行った成果です.彼らの研究を側面から支えたのは理化学研究所などで作成されたゲノムのリソースで、これらの研究のほとんどは特別研究員制度、科研費によって支援される大学院生、PDでした。また彼らと競ったのも多くの研究者からなるコニュニティーで幅広い研究の裾野があったからこそ高い水準の研究が生まれたと理解すべきです.私自身も特別研究員制度の第一期生としていまの私が研究を続けているのもこのような支援のおかげと感謝する次第です.

 大学院生、PDは一般には「学生」などとの誤解を受けておりますが彼らは科学研究を先頭で支える高度技術者であるとの認識を深めるべきで、文部科学省もそのような広報をすべきです(科学未来館はその任務に適任と思います).WGの評価委員から出された「ポスドク生活保護のようなシステムはやめるべき。本人にとっても不幸。」などというコメントは全く持って現状の認識からかけ離れ、真摯に研究に取り組む研究者に対する侮辱的な発言であります.即座に若手研究者からは怒りの声が上がっており、文部科学省も抗議すべきであります.

 PDの出口政策として始まったテニュアトラック制度は採択された人材の質をみて高いものがあり、多くの受け入れ大学ではオープンな審査のもとでベストの人材を選択していると判断しています.この制度は是非継続強化することで研究の中核を担う人材を流動性を持って配置する鍵となるものと思います.なおWG委員から指摘のあったPDの過剰は確かに問題で彼らの出口政策として教員免許の特別枠などは是非実現していただくようにお願いいたします.

 大学院生、PDの立場は微妙です.彼らは毎年研究の継続か、断念かの狭間で悩んでおりか細い糸で研究現場につながっているのが現状です.文部科学省からのサポートが途切れることは直ちに人材の喪失につながります.そのうちかなりの者は民間に流出すると思われ、それ自体は個人の判断として受け入れるべきことです.しかし私が憂慮するのは真にトップの人材は直ちに海外に向かうことです.その結果日本の科学競争力が減ずるだけでなく相対的に海外の競争者側となることが考えられます.このことは古くは下村博士、南部博士、そして利根川博士の例をみれば明らかであります.人材の喪失は直ちに国力の低下を招く危険を憂慮いたします.

 以上の点を考慮いただき科学研究費、人材育成の予算は最優先で死守していただくように切にお願い申し上げます.

 なおSpring8, スーパーコンピュータも基盤のあるところに人材が集まり技術が芽生えることも最大のメリットがあります.海外に依存すれば人材とそれに伴う知の喪失が最も大きな憂慮であります.

  以上よろしくご考慮お願いいたします.