My World: Peter Sagan

2018年のインスブルックで行われた自転車ロードレース世界選手権はスペインのAlejandro Valverdeが勝った。38才の彼は長いキャリアで2個の銀、4個の銅メダルを獲得しているが自転車最強国の一つスペインのエースであってもアルカンシェルのジャージを着るのに17年を要した。200名以上が参加して勝つのはたった一人。自転車のビッグレースで勝つのはそれだけ大変で、実力、チームサポート、運が必要だ。メダルセレモニーにサプライズで登場しValverdeに金メダルを渡したのが本書の著者、Peter Saganだ。Saganは2015から2017までの三年間世界チャンピオンのタイトルを保持し続けた。スロヴァキアという歴史の浅い小国で、チームメートのサポートも彼以外に2名しかいない弱小チームで(スペイン、フランス、イタリアなどは常時最大の10名で編成される)勝ち続けるのは偶然ではあり得ない。勝ち方も最終局面で抜け出して逃げ切り(2015,Richmond)、集団を分断しできたスプリンターぞろいの逃げ集団のスプリント(2016 Doha)、市街地での大集団スプリント制しての勝利(2017 Bergen)などさまざまだ。彼が勝ったシーンも負けたシーンもさまざまなビデオで見ることができる。本書はその本人が自分のサドルの上から見た光景をレース前の準備から序盤、中盤、最終面の駆け引きを語っている。彼自身は「これは自分がみた光景で、選手一人一人がみた光景はすべて違う。自分の経験がレースのすべてではない。」とは言っているが先頭でゴールするチャンピオンがみた光景は彼だけの特別なものだ。その貴重な視点がこの本の面白いところ。

 世界選手権や春のクラシックレース、彼が勝ったレース、負けたレース、どれも疾走感が感じられて凄く面白い。特に面白かったレースを二つ紹介する。2017年の世界選手権は直前に胃腸を壊しろくな食事もできないままに出走したとの事でレースの最終局面まで集団でじっと力を蓄えていたそうだ。とは言ってもライバルチームがSaganを甘くみるはずもなく厳しく監視されていたはずだ。それをかいくぐってゴール前300mまで静かに潜航しつつも徐々に前に上がり、最終直線で先行スプリントをかけた地元のAlexander Christofについて捲り上げて、最後は完璧なタイミングでバイクを投げてペダルを踏み続けたChristofをタイヤ幅の僅差でかわしての勝利。もう一つは2018年のParis-Leubex。最後50kmほどでメイン集団を単独で抜け出し先行の逃げグループに追いいて最後まで逃げ切った。石畳の衝撃が強烈なこのレースで逃げている最中に彼のハンドルのボルトが緩み、左に30度ズレてしまったそうだ。立ち止まって直す訳にも行かず時速40km越えのスピードで逃げ続ける間に逃げの仲間の後輪に当てて修正を試みるなど危ない事もやったが直せず。結局チームカーがきてメカニックに助けてもらったがあのままでは最後のスプリントで負ける可能性もあった訳だ。ともあれ逃げの仲間を一人引き連れてバンクに入り、最後は楽々とスプリントを制して勝利。逃げの間に追いつかれる不安を制してレース冒頭から逃げ続けていた先行グループの選手を見方につけるため自ら引き続けて後続との距離を開くところが緊迫感満点だった。

 サガンは強いだけではなくレース中にウィリーで観客を喜ばしたり、リオのオリンピックではロードではなくマウンテンバイクで出場するなど多彩なバイク技術を生かしたエンターテイナーだ。本当もおもろくて魅力的なヤツのさまざまな面を知ることができる一冊。Kindleで英語版を読了。

 

My World

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2015 Richmond

2017 Bergen

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