どろろ

どろろ(通常版) [DVD]

どろろ(通常版) [DVD]

 テレビの映画劇場でみた。手塚治のマンガが原作で人気俳優を起用してCGを駆使して実写版化したもの。内容は大げさすぎるほどの妖怪のシーンが笑える.柴崎コウどろろ役は美人すぎてちょっとそぐわなかった。ちょっと抜けている、という程度ならいいのだが、コミカルに演じることに徹底するのには無理があったようだ。助演陣に原田芳雄中井貴一原田美枝子など豪華。でも中井貴一を除いてはそれほどでもなかった.土屋アンナが蛾の妖怪役で出演したが私の趣味では古典的なろくろ首を是非やってもらいたかった。

 映画の出来自体は悪趣味のエンタテイメントに過ぎないのだが、話の端々に深刻な設定が入る。障害者、子捨て、差別である。百鬼丸の出生は父親の武将が魔物と取り引きし、権力と引き替えに息子の体を譲り渡してしまったことから始まる。五体どころか48の臓器と器官を奪われ抜け殻のような体のみが残る。母親は不具の子供を桶に入れて川に流す。魔物との取引を知らない母親は父親の命とはいえ障害者の子を捨てたのである。

 川で子供を拾った医師は呪術の限りを尽くして子供の体を修復する。このシーンはブラックジャックと共通したモチーフで、再生医療の先取りである。復活させられた子供はしかし健常な体ではない。目は見えないが両腕には刀がとりつけられ戦闘用のサイボーグとして訓練させられた。年老いた医師は彼の再生医療技術が戦国の世で殺人機械の製造技術として利用されることを恐れて自分の死後にすべての資料を焼き払うことを命じる。

 百鬼丸は不具の体で魔物を探しては退治していく。魔物を殺すたびに失われた臓器を取り戻せるのである。この設定は敵を破るたびにアイテムをゲットするゲーム感覚に訴えるところだ。実際そのようなゲームがあるんだと娘が盛んに主張していた(うちでは買い与えていませんが)。

 百鬼丸たちはある寺の焼け跡に迷い込み、赤ん坊の妖怪に遭遇する。そこはひもじい農村の百姓たちが口減らしの為に子供を捨てる場所だった。ところが捨てられた子供たちは近所の屋敷に巣くう蛾の妖怪がさらって、自分の子供(幼虫)を養うために食っていたのだ。生きるために子を捨て、自分の子孫繁殖の為に人の子を食う妖怪。どっちもどっちだが非情な生態系の寓話のようだ。

 妖怪は百鬼丸によって退治されるのだがハッピーエンドでは終わらない。百鬼丸が不具で奇妙な体をしていることに気がついた村人は百鬼丸を化け物と見なして、石をもって追い出しにかかる。武士と妖怪に虐げられた農民が今度は異形の流れ者を排除にかかる。差別される者が新たな差別を生むという皮肉。

 このように本作品はこれまでメディアが避けていた問題を大胆に盛り込んで観る者に突きつけている.失業者に対する一部の人々の冷たい対応、嬰児を捨て、子供を虐待する親などの病理は現代でも生きている.よくもまあこんな深刻な内容を劇場公開し、TVで茶の間に届けられたものだ。CGを駆使した時代劇エンターテイメントの体裁をとったのは無用な批判をかわす意図もあったのかも知れない.なによりも巨匠手塚治がマンガの形に忍ばせてこれらの深刻なテーマを提示した発想がすべての底流にあったわけである。

どろろ (第1巻) (Sunday comics)

どろろ (第1巻) (Sunday comics)