兵庫県知事選挙
今回の選挙では斎藤元彦氏に投票した。その経緯を振り返る。
そもそも
前回の2021年選挙。長期政権の井戸恵三知事の禅定方針の反旗を翻した県自民党の一部に維新が乗って総務官僚の斎藤元彦氏を担ぎ出した。コロナの時期にはすでに井戸知事の耄碌ぶりがあらわになっていたので、私は斎藤氏に投票、そして当選。その後は県政に関心を寄せることもなく、齋藤知事の仕事ぶりはTwitterで見るやや過剰気味の自己アピール以外は全く知らずに過ごしていた。
証拠なき疑惑
県議会の騒動が耳に入ったのは今年の6月だっただろうか。パワハラ、おねだり、100条委員会?え?自分は投票する人物を間違えたのか?気になって流布していた告発文を読んでみた。書かれていたのは、1)県の外郭団体に就任した元大学教授が職を停止されて憤慨した挙句に亡くなったという話。失職とお亡くなりなったことの因果関係はよくわからない。気の毒なことだがひょうご震災記念21世紀研究機構というのは典型的な天下りポストなのでカットされても文句は言えまい。2)パワハラ?告発者の伝聞のようだ。当事者の証言と告発がない限りは県としても対応はできない。3)おねだり。いかにもケチな話だが贈収賄になるケースとは読み取れない。4)阪神優勝パレードの際の寄付金と補助金のバーター疑惑。これはいかにもありそうな話で証拠と証言を積み重ねれば事件化の可能性もあるかと思った。しかし今に至るまで決定的な証拠は出ていない。全文を読めたかどうかはわからない。しかし見たかぎりどれも言いがかり以上の材料に乏しいので怪文書と言われても仕方ないと思う。県の上層部にいた告発者が本気で知事の首をとりに行くつもりならもっと強い証拠を集めたら良いのに、と思った。それができなかったのは大した材料が得られ無かったからだろう。強い証拠なら警察なりの捜査機関に送るところだが、そこまででは無かったからこそ報道機関に送って炎上を狙ったのだろうか。
そんな中、100条委員会での証言を目前にした告発者が自殺していたという衝撃的なニュースが飛び出す。どうなってるの?もうわけ分かんない。騒動が激化しているがしっかりした証拠が出るまでは静観することにした。四面楚歌の知事は支持母体だった自民党や、維新からも見放された。しかしニュースの話題は最もどうでも良いおねだり疑惑に移行してきて、核心からはますます遠ざかる。挙句に果てに議会が不信任案を可決。満場一致とはどうなっているの?100条委員会で調査中と違うんかい?
選挙戦
不信任案を受けて失職した斎藤元知事が孤立無援の出馬表明。なんたる鉄の意思。その頃から彼の活動をフォロー。斎藤氏の演説を聞く機会はなかったが時折選挙カーは目にした。神戸市内ではかなりの露出度だ。演説に人が集まる映像も目にした。選挙にはあの立花孝氏までが参戦し混戦模様。自分の投票の方針としては前回知事選同様に県政改革の継続とする。斉藤氏も考慮することにしたが満身創痍の彼に再選の目は少ないだろうと考えつつ情報集めを始める。TVは一切見ずにネットを探す。Youtubeは真っ当なものから極端に偏って下品なものまでさまざまなチャンネルが溢れている。立花氏のものまで含めて色々見てみる。告発の信ぴょう性の評価が重要で、告発者が信頼にあたる人物であるかがポイントだ。故人となった彼に尋ねることはもはやできない。彼の過去の行動を知ることが唯一の材料だ。その点、噂されていて、立花氏が暴露した告発者の女性問題は心証を下げるに十分だった。私的なこととして委員会の議論の対象から外したのはどうかと思う。
いちばん有用だったのは”rehacq−リハック−【公式】”で、斎藤氏をはじめとして対立候補、100条委員会の委員長まで引っ張り出してノーカットで喋らせる。司会の高橋弘樹さんは柔らかい語り口でニュートラルな立ち位置を保持しつつも肝心なポイントには笑顔を絶やさず、容赦なく繰り返し切りこむ。ついには7名の候補者全てを並べての討論会まで行った。この討論会で高橋氏はいくつか注目されている論点を挙げて各候補にしゃべらせる。政策に関して斉藤氏は現職の強みを活かして実績をアピール。直接の対峙なのからだろうが対立候補から斎藤氏のスキャンダルに対する非難めいた発言は出てこない。県政に関することのアイデアは具体性に欠け、空虚だ。
期日前投票に出かけた区役所は夜にもかかわらず投票者が絶えない。投票日当日はなんと神戸マラソンに重なっていた。大票田の神戸市中央区から明石までが交通規制。とは言え投票率は伸びた。開票前に当確を出した新聞社もいたのにはびっくりした。
振り返って
今になって斎藤氏の依頼を受けた広告会社のSNS発信が公職選挙法違反だとの指摘がでてきて騒然としている。斎藤陣営の問題は選挙のプロののコンサルがつかなかったことが原因だったのかもしれない。政党も組織力を上げて紙一重のところで活動しているのだろう。本件はどう転ぶか予想がつかないが選挙結果を覆すことにはならないのではないか。
斎藤氏に票を投じた110万人全てがTwitterやYoutubeを見ていたとは到底思えない。地元の人々のつながりで支持を広げたケースも多いのだろう。SNSが発火点になったこと、立花氏の主張に影響された選挙と言われた。選挙のトリックスターといえば堀江貴文氏を思い出す。彼は2005年の衆議院選挙で郵政改革に反対した亀井静香氏への刺客として小泉首相の後押しで立候補した。落選後再び政界を目指している間にライブドア事件で逮捕され、有罪判決を受けて投獄される。出る杭はうたれるごとくに潰された。立花氏を快く思わない人は大勢いて、彼も隙を見せれば同じ目に遭うだろう。
全国的に注目を浴びた選挙だったので選挙後にはさまざまな解説、切り抜き動画など有象無象の発信が溢れた。だからこそ情報を選ぶ目が鍛えられるだろう。有権者の多くは慎重に考えて判断したのだと思う。今後の選挙のあり方が変わる潮目にあたり、それは議論を巻き起こしつつも良い方向に向かっていくことを期待する。
(追記11/24)
広告会社への委託問題がさらに炎上している。他の陣営や、衆議院選挙でも似たようなSNS宣伝は目にしたが今回は会社が仕事として行ったことが法に触れるということらしい。労働組合員、企業体が社員を動員することはよく耳にするがこれらは「ボランティア」の体裁をとっているからセーフということのようだ。齋藤氏も前回選挙では祭り上げられて選挙の泥臭いところは関わっていなかったのかもしない。法令違反を回避する細かい指示ができる司令塔に欠けていたのではないか。今回は会社社長が言わなくてもいいことをブログで発信してしまったことが問題で、この件を批判する選挙ウォッチャーや自称プロの発言には「黙っていればいいものを」と苦々しく見ているような思いが感じられた。若い女性社長に対するやっかみのような物も混じって炎上度が上がったようだ。なんらかのペナルティーはあるかもしれないが、選挙結果自体を変えるようなものではなかったのではないかと捉えている。
不思議の国の数学者
昨年春に公開された韓国映画。韓国の受験エリート校で落ちこぼれかけている男子生徒がひょんなことから人民軍とあだ名される脱北者で、学校の警備員を務める初老の老人から数学の指導を受けることになる。「人民軍」は実は北ではエリートの数学教授で、歴史上の大難問の証明を完成させたとして南北政府が共のその行方を追っている人物だった!彼は静かに仕事をこなし、数学の体系とバッハの音楽をこよなく愛する心優しい人物だ。
北では数学を武器の設計に使わされた。それがイヤで南に来たら受験勉強と出世の道具としてしか使われていない。なぜ正解だけではなく証明の過程を大事にしないのか?数学の美しさを味あわないのか?「人民軍」の感想は心を打つ。南北問題は韓国が避けて通れない課題で、そこに数学の問題をうまく組み合わせた秀作だ。数学の扱いはやや雑な感もあるものの、数学と音楽には共通の美しさがあることがよく伝わってくる。
サマーフィルムに乗って
河合優美にハマっているので彼女が助演で出ている映画として見た。青春ものなんだが映画愛が溢れる、俳優の若さが爆発した秀作。ちょっとひねくれた女子高生3人組が、男子を強引に引き込んで時代劇を撮る。主演の伊藤 万理華、女子らしくないところがかわいい。女子校の演劇部でチャンバラ劇ばっかりやっていた娘を思い出した。
落下の解剖学
封切り二日目に見に行った。長尺の映画。種明かしを読み取れなかったのでモヤモヤ。もう一度みるか?
ピケティを読む(聴く)
Amazonに投稿したカスタマーレビュー
Audible版『自然、文化、そして不平等 ―― 国際比較と歴史の視点から 』 | トマ・ピケティ, 村井章子・訳 | Audible.co.jp
フランス文化人の考えを知る
初めて読むピケティの著作。聴いていて「平等」への過度な強調がとても気になった。民主主義で平等を謳う欧米諸国の欺瞞を数値とともに指摘する態度は良いと思う。しかし「平等」を絶対的な善と捉えて地球温暖化問題の解決も社会的平等が鍵だと主張するのは言い過ぎだと思う。なぜ彼がここまで平等と強調し、聴衆がそれを支持するのかが謎だ。
答えはおそらくフランスという国にある。フランスは国王の支配下を革命で乗り越えて民衆の平等を達成したという成功体験(幻想)を国是として持つ。だからこそ社会主義的政策をとってまでも平等の達成を目指す政治的姿勢が根強く支持されていて、著者ピケティはそのような人々を読者として評価を高めてきたのだろう。またフランスは他の欧州諸国とともにアジア アフリカに持った植民地からの収奪で潤った歴史を持つ。しかも文化と教育をそれほど残さなかったためか、内戦に苦しみ今でも政治的不安定を抱える旧植民地は多い。本書では「自由と平等」が繰り返される。確かに歴史に学べば自由を抑圧する政治体制下で不平等が拡大し、自由を求める民衆による蜂起によって今の政治体制が生まれたのは事実だ。しかしその対偶として自由を保障すれば平等が達成されるという言説も誤りである。自由を保障することで経済や科学が発展することは事実だろうが、その成果が独占されれば不平等と危険な専制が力を持つことになる。貧しい民衆の不満が高まれば社会不安が生じ、革命や戦争で破壊的な道筋を辿る。その危険性を理解して自由をコントロールして富を再配分するところに現代の政治の役割があるのだが、具体的にどのようなコントロールがあるべきかをピケティは語っていない。最後の段にあるCO2排出の不平等(大半を富める先進国が占めている)の平等化を力説しているが、これを達成すればCO2排出が削減できるのか、という肝心な点についての説明はない。
本書は「自由と平等」を盲目的に信仰する人たちに捧げられており、フランスにはそのような聴衆が多いのだろう。
Perfect Days
ヴィム・ヴェンダースが東京を撮った映画ということで話題の作品を観にシネリーブル神戸へ。1日一回上映ということでほぼ満員。役所広司演じる初老男性。早朝に目覚め、盆栽の世話。缶コーヒーを飲んで東京都のトイレ掃除の仕事に出かける。仕事ぶりは極めて丁寧。仕事が終わると銭湯に入り、駅そばの居酒屋で晩酌。寝床で本を読み就寝。休日はコインランドリーで洗濯をして夜は行きつけの小料理屋で晩酌。趣味はカセットテープで聞く80年代ロックと古本屋で買う百円均一の文庫本。それからフィルムカメラで撮影する木漏れ日の映像。規則正しくテンポを刻む日常だが時折起こるエピソードによる変調に彼は心揺すぶられる。しかし感情に支配されて負けることなく、あくまで冷静に寡黙な自分に戻る。この気分はとても共感できるが、彼のような質素な暮らしを続けられるかどうかは自信がない。
ヴィム・ヴェンダースといえばアメリカ大陸の旅を主題にしたパリ・テキサス(1984)。訳ありの男性が放浪するロードムービーで、自分にとっても印象深い作品だったが、主人公の抱える心の傷が大きすぎて気楽に見れる映画ではなかった。40年後に撮影した本作もやはり訳ありの孤独な一人暮らし男性が主人公。しかし79才になった監督の人物描写には人間への共感が溢れていて安心してみていられる。東京中のトイレを自家用バンでカセットの音楽を鳴らしながら巡る。外国人にとってはウォッシュレットまでついて、デザインも奇抜な東京の公衆トイレ巡りは遊園地の感覚で、首都高速の風景はロードムービーそのものなのだろう。石川さゆりや田中民が出演するなど日本人にとっても見どころあり。東京スカイツリーが見える下町の映像に郷愁を感じる人も多いだろう。
映画
最近見た作品でよかったもの。
- 特捜部Q 檻の中の女 北欧刑事物の典型で設定は暗く、陰惨。しかしメインキャラクターがうまく作られていて引き込まれる。シリーズ化されているが引き続き見たい。
- 女神の見えざる手 大型案件で辣腕を振るう女性ロビイストが儲けにならない銃規制法案に取り組み、大物議員と大手事務所と戦う。原題のMiss Sloaneの方がよい。
- ラストフルメジャー ベトナム戦争で戦死した英雄に最高位の勲章を授与させるために活動する戦友たち。それを支える戦争を知らない若い官僚。美しく、感動的なストーリーだがしかしそれはベトナム戦争の一面に過ぎない。
- 晩春 若い娘と二人暮らしの老教授。父を残して嫁ぐことを拒む娘を納得させるために父は悲しい嘘をつく。
- Coda ろうの一家に生まれた健聴者の娘は素晴らしい歌声の持ち主だった。主演の子の歌声がすばらしい。