嘘と過ちに気づく知恵

 研究成果の捏造問題が話題をまいているが私のような研究を生業とするものにとっては「嘘をつかれて迷惑千万」というところと「万が一にも糾弾を受ける立ち場になるかも」という二重の怖さがある。もちろん確信犯的な捏造は言語道断だが、実験科学の世界では仮説とその検証を繰り返しながら真実に近づくという作業手法をとっている以上、誤った結果と解釈が公表されることを一定のリスクとして許容している。なので研究成果を発表する際には95%の確信と共に5%程度の不確かさを自覚した上で発表するものだ(少なくとも私は・・・)。なので常に喉元に刃を突きつけられているという確かな自覚がある。そして当然ながら他人からの報告に対してもそのような態度は忘れるべきではない。そんなときのReminderそして二つあげておく。

他人の研究成果に接する際には・・・

“Believe those who are seeking the truth. Doubt those who find it.”

Andre Gide, (Wikipedia)

 真実を探求する人の信念は信じよ、しかし発見されたものが真実かどうかは疑いを持って対せよ。

自らの成果に対しては・・・

“I much prefer the sharpest criticism of a single intelligent man to the thoughtless approval of the masses.”

Johannes Kepler

 "thoughtless approval of the masses"というのが強烈な皮肉ですね。「無知なる人々からの賞賛」といった意味でしょうか。今回のES細胞捏造騒動で偽りの報告を利用しようとした人、また不用意に賞賛して勝ち馬に乗ろうとしてしまった人が大勢いたようです。

 また複数のメンバーからからなる研究チームで健全な批判が行われないことは危険な兆候で、"thoughtless approval of the boss"は致命傷になります。