悪魔の証明

 最近ブログを休んでいるうちに国会では民主党の永田議員が偽物のメール情報にもとづいて質問をしたためにえらい騒ぎになってしまった。問題は彼が証拠能力などないメールのコピーを元に自民党武部幹事長を追求したためで、その後はメールの裏付けをとらなかった永田議員と民主党執行部への非難の嵐だ。批判は当然でこれを薬にもう少しまともな情報検証能力をつけてほしいと願うばかりだ。

 しかし証拠の検定というと、北朝鮮が提供した横田めぐみさんの遺骨とされる標本を他人の者と鑑定したDNA診断の結果に対する疑問、についてはほとんど日本のメディアは触れていない。真相はおそらく提供された遺骨の断片では的確なDNA診断は困難で、横田めぐみさん本人なのか他人なのかの決着はつけられないだろうということだろう。だからといって横田めぐみさんが死亡したとする北朝鮮の主張を裏付ける証拠は何もなく、北朝鮮に事の真相を明らかにする責任があるという状況に変わりはない。問題なのはきわどいDNA鑑定の結果を材料に交渉に望んだために今になって膠着状態になってしまった事で大変残念な事だ。

 メール問題に合わせて遺骨問題を持ち出したのは議員も政府も物的証拠の信憑性をしっかり固めてから交渉のテーブルに持ち出してほしいという理由からだ。

 一方で私の同業者も例外ではない。多比良教授の産総研における研究疑惑の検証結果も、「不正が行われていたことを否定できない」として論文の撤回と特許の取り下げを勧告したそうだ。

研究ミスコンダクトに関する調査結果報告と今後の措置について 

 この場合、川崎広明研究員がすべてのデータを出したが実際に実験が行われたとする証拠は残っていなかった。しかしそれは不正を行ったことを証明するための証拠すら残っていなかった事も意味している。

 彼らに対するペナルティーに関しての明確な報告はまだないが、「不正をはたらいたこと」への積極的な証拠はないので「嘘をついた罪」を問うことは出来ないようだ。しかし彼らは「不正をはたらかなかった事を証明する事が出来ない」事に対しての責任を負うべきだろうと私は考える。

 これはまさに永田議員と民主党武部幹事長とその次男に対して求めた事と同じだ。ただし武部氏らの場合は身に覚えのない嫌疑を晴らすための「悪魔の証明」を求められたとの批判があった。メール問題のケースを含めて一般的には悪魔の証明をする筋合いはない。

 一方で科学者は論文、特許というかたちで公的資金の援助のもとで自分の責任において行われた仕事を世間に出した行為に対して、不正は働いていないという証明をする責務を負っている。これは悪魔の証明でも何でもなく、自分の出した仕事に対するアフターケアの一環
である。

 遺骨問題のケースでは提出された標本がめぐみさん本人の物であるという証明の義務は北朝鮮側にあったのにそこを突っぱねずに、必ずしも必要ではなかったDNA鑑定に頼って問題を複雑化させた。悪魔の証明をわざわざ買ってでた所に失策があったわけだ。

 最近話題をまいた捏造問題の連発を受けてNatureではデジタルデータの扱いについて過剰な補正を行わないためのガイドラインをもうけた。

Not picture-perfect

Nature's new guidelines for digital images encourage openness about the way data are manipulated.


これまでは写真を切り貼りしてつくった組写真の図版を提出すれば良かったのだが、露骨な偽造データがあった(黄教授のケース、そして阪大の下村教授らのケース)ので、すべて元のデータを保存し、データ取得の条件、画像補正の方法、条件をすべて記録したデータを提供せよという物だ。たぶん論文執筆並に大変な量になるだろうが、こういう事を課しておけばデータ捏造の温床を絶つ助けにはなるだろうとは思う。ますます論文作成は大変になっていくと感じている。でも仕方ないことだ。