Philly

この一週間は学会でフィラデルフィアに行っていた。ハエの専門家だけが5日間にわたって集まる学会なのだが幅広いトピックを網羅しており朝の8時半から夜まで発表が続いても飽きがこない。またPIがこまめに出てきているので情報のアップデートや大事な交渉ごともすんでしまうのでとても便利だ。必ず顔を出して運営に参加しているベテランたちにはこの分野をますますもり立てていこうという熱意が感じられる。歴史が長い学会になるほど長老、中堅、若手の間に意識のずれが生じて衰退を招くのだがこの学会は比較的うまく若いメンバーをオーガナイザーに引き込んで運営の主導権をバトンタッチしているようだ。
 そのベテランに属する人と話をする機会があった。幹細胞分野を開拓した方でそっちの方面の学会にもよく参加するのだがハエの分野のクオリティーの高さは誇るべきものだと強調していた。新しいコンセプトの開拓と技術の導入の面で優れた成果を輩出し続けているという点において私も同感だ。しかしその品質を高く保つために絶えざる工夫が必要で、常に先端を走り続ける気概と努力なくしてこの分野が生き延びることはできないと思うのだ。
 私はポスター発表をじっくり見るのが楽しみなので三日間張りっぱなしで深夜まで見ることのできる形式をとても気に入っている。日本の学会のように一日だけで慌ただしく終わってしまう形式は何とかならないものか。
 オープンな雰囲気はとても良いのだがそれでもいろんなところで研究の興味がぶつかることは当然のことで緊張することも多いだろう。学会は出席しても発表はしない、という人もいるみたいだ。発表したらスクープされてしまったなんて嘆きの声も聞く。大勢の研究者が生き残りをかけて研究している世界なのだからそんな世知辛いこともあるのは致し方ない。スクープされたなんていうのも負け惜しみにすぎない。いい人もいれば悪い人もいる、当たり前の世界で研究が行われているのだ。大事なことは科学の価値を高めようと努力している人たちに認められないことには自分の研究が支持を受けることは困難で、人に認めさせるには直に対面して自分をさらけ出すのが一番の近道だ。
 時差に耐えて出席を続けていたが最後の夜はあっという間に寝込んで、帰りの飛行機も眠り続けていた。夜明け前に目が覚めて今これを書いている。参加した学生たちには新たなモチベーションの糧となったことだろう。