バベル

 新聞の映画評に触発されて見てきた。連休中の雨の日とあって映画館は大混雑だったがネットで事前にチケット購入していたおかげで時間ぎりぎりに行ったのにもかかわらず問題なく入館できた。

 作品はモロッコ、メキシコ、東京を舞台に一見別々の物語が展開する。しかし次第に一本の、偶然の線で結ばれている事が明らかにされる。人のイノセントな行為が他の人の不幸を招き、その不幸を避けようとまた別の人に災難が訪れ、国際紛争の危機が生ずる。地球上の我々はマーフィーの法則に支配され、不幸の連鎖で結ばれているというのがテーマだ。重いテーマなのだが最後に日本でのシーンにわずかな救いを感じたのは私が日本人だからだろうか。この映画ではライフルの銃弾が東京とモロッコにいるアメリカ人をつないだ。現実の世界でも中東で汲み出された石油が先進国で消費され、温暖化が進めばエスキモーの家が傾き、南洋の島国が海に沈む。世界を結ぶのはカネとそれで取引される資源とエネルギーだ。ネオン輝く東京の夜景と真っ暗闇のアメリカーメキシコ国境の砂漠がそれを象徴しているようだ。

 特に誰の演技が際だったとも思わなかったのだが、世界三カ所で独立にロケされた映像を巧みに編集し、俳優たちの演技を有効に関連づけた監督の手腕が優れているのだろう。独立して進行する三つの物語の時間が微妙にずれて進行し、最後の最後に同期して観客に種明かしがなされるところが編集の妙だ。この作品が高い評価を得て様々な表彰に呼ばれることがなければ、それぞれのロケ地の出演者は互いに会うこともなく終わったはずだ。2時間半近い大作だが終わりまで時間を感じることはなかった。それにしてもエンドロールの長いこと。映画三本分の労力が込められているわけだ。特に派手でもなく、実験的な構成の重いテーマの作品を送り出し、高い評価を得させたハリウッド映画の底力を感じる。
☆☆☆

追記

  1. 気分が悪くなる、と話題になったディスコのフラッシュ点滅シーンはなんの問題もなかった。あの光の効果はディスコで人の気分を昂揚させるために使われているものなので一部に「バッド・トリップ」する人がでても不思議ではないだろう。
  2. 映画の公式サイト http://babel.gyao.jp/ のできは良くない。「バベル」のタイトルは魅力的なのだがバベルの塔のデザインを使っても映画のイメージを強制させているようでよろしくない。「各界からの絶賛の声」なんて陳腐なせりふのオンパレード。宣伝側からの予備知識なしに見に行くのが良いだろう。