Retracted paper

Cell -- Nunez et al."Nuclear Receptor-Enhanced Transcription Requires Motor- and LSD1-Dependent Gene Networking in Interchromatin Granules"

Shortly after publication of this paper, concerns were brought to the authors' attention regarding similarities in the plots quantifying the interchromosomal distances derived from FISH images. The authors undertook extensive investigation and confirmed a series of data duplications and transversions in the original dataset.

 この手のねつ造データの話をきくたびにうんざりさせられる.この原論文はCellの表紙を飾った仕事で話題をまいたのだが出版後に速攻で「データがおかしい」との抗議がきたらしい.そりゃそうだ.元データを見たら至る所で同じプロットが何度もコピペされている.これは論文の主張の核心部分なので単なる「間違い」で言い逃れることはできなかったのだろう.特に責任著者の一人 (MGR)は著名な人なので彼の仕事だからこそ信じた人は多かろう.

 作為的なねつ造データによる論文は単なる間違いではなくさまざまな意味で科学者としての犯罪だ.

  1. 誤ったデータを流通させて他の研究者を混乱させたこと.
  2. 論文審査のプロセスを無為にしたこと.特にボランティアで行っている審査員の貴重な時間を奪ったこと.
  3. 他の研究者のチャンスを奪ったこと.---トップジャーナルの掲載論文数は厳しく絞られているので代わりに押し出されてしまった論文があるはずだ
  4. 社会からの科学者に対する信頼を損なったこと

 そして最も許し難いことは、信頼にもとずく研究の審査システムを裏切ったこと.公開された研究データのすべてが正しいものであるかを第三者が検証することは不可能だ.それでも報告された論文の結果を受け入れるのは*1著者らが良心にもとづいてデータの正確性を保証し、読者はそれを受け入れるからだ.この信頼を裏切ることで審査はより厳格にならざるを得ず、審査にかかるコストは増す.なので生産的に研究が出来るようにするにはこの信頼を確保することが欠かせない.信頼を保つためには嘘をついた研究者とその雇用者はなぜそのようなねつ造行為がおこったかを説明する義務がある.それなくしては研究費、投稿の権利などの点でペナルティを課せられても仕方なかろう.

*1:受け入れることは信じることとはべつだ.しかし報告が考慮に値する結果で、その報告に基づいて新たな実験を計画することで確認と発展を試みることになる