乱:黒澤明

乱 [DVD]

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BS映画劇場.この作品は何度か観ているのだが今回改めてこの作品の凄さを感じた.敵国を制圧し一国を平定した戦国の一文字秀虎は齢を重ね、長男に家督を譲る.権力を手にした長男は力を維持するために、老いた父を追放する.長男と次男の軍勢が取り囲む中、城に火をかけられた父は自害を覚悟するが刀すら残されてはいない.迫りくる炎の中で父は発狂し一人城を出る.燃え盛る城から狂った父が歩み出る.これは凄いシーン.戦いのさなか、次男は争いに乗じて兄を暗殺する.兄を操って争いに差し向けていた妻は権力を握った弟に乗り換え、本妻の座に座るため前の本妻の首を要求する.互いに殺し合う戦国の世で一片の救いもない結末.醜い争い.老いの醜さと悲しさを容赦なく描いた作品.黒澤明監督75才の作品.

 鍵となるシーンはどれも絵になるように巧みに構図が計算されている.衣装が鮮やかで軍勢を色分けしてストーリーをわかりやすくしている.俳優のメークは極端で誰が演じているのかわからない.なので役者は自分の顔ではなく新しいキャラクターを作って演じなくてはならない.争いの鍵を握る楓の方は秀虎に滅ぼされた一族の娘.その恨みを胸に兄弟を操って滅亡に導く演技がすごい.この役を演じた原田美枝子がこの経験をインタビューで語っている.私の世代を代表するアイドル系の女優が25才の若い盛りに演技派への変貌を懸けて黒澤映画に挑戦した(>ここ)彼女の風貌の変わりようと迫力には驚いた.巨額の経費をかけて製作された作品だがそのお金に見合う作品.

 その前に観た「影武者」に比べても色彩感、映像のダイナミックさで勝ると思う.オリジナル創作なので史実にとらわれることなくストーリーとキャラクターを設定できたのが良いように思う.それにしてもこのような大作を創る監督の仕事ぶりは観てみたかった.