千夜一夜

 

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失踪した男を待ち侘びる二人の女。30年前の新婚時代に夫が突然いなくなった登美子は、再婚を求める幼馴染とそれを勧める周囲の期待を拒絶し、漁港の加工場で働きながら夫を待ち続ける。看護師の奈美の夫は、理科教師を務めていたが、春休みに入ると同時に姿を消した。2年前のことだった。この二人が待つことへの接し方が映画のテーマ。奈美は登美子を訪ねて夫探しの手伝いを依頼する。引き受ける登美子は頼もしい。しかし自宅の登美子は夫が残したカセットテープで若い頃の夫婦の会話を繰り返し聴き続ける。登美子の時間は彼女が若く、美しく幸福だった頃から止まっている。自分の母と、夫の母が次々と亡くなることが年月と老いを象徴する。登美子が待つ行為は自分の老いを拒絶し、美しかった過去に止まる行為だ。一方で奈美は夫と離婚して新しい家族を作ることを選ぶ。過去は精算し、未来に向かうことが奈美の選択だ。二人の女の選択は対照的だが、その違いは待つ時間で決められたのだろう。長く待ちすぎた登美子はやり直す機会を逸し、過去に止まることで自分を納得させるのだと思った。

 舞台は佐渡島北朝鮮からの不審船が現れ、拉致が頻発する。その緊張感を背景に置いてと不安感を催させる。観るものに多様な解釈をさせる余地を残した作品。くたびれた老女を演じる田中裕子は終盤に近づくにつれて活力を見せるようになる。さすがの演技力。