Super Folk Song

 矢野顕子の1992年の作品。このCDの録画はさる公会堂を借り切って3日間で行われたそうだ。DVDはその時の録音風景を収めた映画だ。たまたま訪れたCD屋においてあったもの手にして購入したのだがこれがとても良い。モノクロの画像でただ淡々と収録風景を追う。全てピアノの弾き語りの一発録り。完成したアルバムでは伺えない、作品を作る現場の真剣勝負をのぞき見ることができる。気楽にピアノを鳴らしながら気分が乗ってきたのを見計らってうまく曲に入れたケースがある。一方でリハーサルを十分繰り返してから収録にのぞむのだろうが、どうしても彼女のイメージした音とリズムが出ずなんどもなんどもイントロを繰り返すシーン。完璧に弾けて良かった!と思ったとたん最後に失敗してお蔵入りになってしまったテイクなどが次々と現れる。録画風景の合間に挿入されるディレクターとの対話、関係者のインタビューも興味深い。


 矢野顕子というアーティストが苦吟を重ねて、ひたすら完璧を目指して行く姿に心打たれる。ソロの作品なので納得してokを出すのも自分の責任。妥協なき姿勢にプロの魂を感じる。リハーサルを繰り返しながら曲を作って行くシーンが推敲を重ねて文章を完成させていく過程にも通じる。完璧な曲も、完璧な文章も存在しない。ただ、より完璧に近づこうとする努力があるのみ。音楽に限らず創造的な仕事に関わる全ての人に鑑賞を勧める一作。


 同名のCDをその後購入。映像のシーンを思い浮かべながら聴くとひとしお味わい深いものである。
SUPER FOLK SONG