クライマーズハイ in TV

 原作を読んだ。その続きとして12/10,17とNHKでの放映を見ました。なんといっても日航機事故当時の映像をふんだんに使った現場のシーンは当時を知る人にとって事故の衝撃を思い出させるインパクトの強いものだった。前編はニュース映像の迫力に助けられてうまく進んでいた。

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 しかし後編のクライマックスに入ると新聞社の内部抗争が全面に出たドタバタ劇になって食傷気味だった。悠木は事故の遺族がどう読むかを考えつつ紙面作りを考えるのだが新聞を商品と考える上層部とことごとく衝突して、つぶされる。インテリがつくってヤクザが売るのが新聞だ、という使い古された言い回しがまだ生きているシーンだ。しかし自信を持って用意した記事をはずされ、紙面編成でも干渉され、大スクープは幻に終わり、あげくの果てには読者投稿欄に、正論だが新聞社には耳の痛い投書を掲載して社長の逆鱗に触れ左遷される。悠木の行動は青臭さすぎてドラマに入っていけなかった。


 ガ島通信の藤代裕之氏によると作者の横山秀夫氏は上毛新聞の元記者で当時の経験がモチーフになっているそうだ。どこまでが事実かはわからないがああいった現場から生産される新聞は心して読まなくてはならないという教訓がここにはある。


 小説をドラマ化する時にまず気になるのはキャスティング。主演の悠木和雅に佐藤浩一と上司の岸部一徳はうまくはまっていた。ただし小説に盛り込まれた様々なストーリーをフォローするには短すぎて原作を読んでいない人にとっては意味不明の設定が多かったと思う。たとえば安西耿一郎がなぜ倒れたかなどについて説明はない。原作に忠実であろうとしたために雑然とした印象はぬぐえない。

 ちょっとは期待していたクライミングシーンもいまいち。ゲレンデの練習の休憩中で安西耿一郎(赤井英和)がロープを踏んでいたり、カラビナのかけ方が間違っていたり、衝立に向かうアプローチでの足取りがおぼつかない、など頂けないシーンの連発だ。極めつけはクライミング中にパートナーである安西の息子から自分の娘との結婚話を持ち出される。自分の命を預けている場面で「あんたの娘をください」といわれても断るのは難しいですよ。安西燐太郎君、君はズルイ!それに本当にクライミングに「ハイ」な状態ならば目前の課題に集中していてのんびり結婚の相談などできるはずがないではないか。


 日航機事故から20年の今年に合わせてのドラマ化だったのだろう。このドラマで最も印象に残るのは遺族の母子が遺体を持ち帰る途中に新聞社に地元の新聞を買いに来るシーン、そして犠牲者が機中で書いた遺書を読み上げるシーンだ。いかなる演出よりも事故の重大さに勝るものはない。事故に焦点を絞ったストーリーを組むことで人の心を打つ骨太のドラマをつくることができるはずだ。