スケープゴート

 社会の注目を浴びる事件があるとその犯人、責任者を追求する声が挙がる。メディアはその声を増幅し、警察・行政は背中を押されて行動を起こす。世間の声は生け贄を捧げるまではなりやまない。

 昨年世間を震撼させた耐震強度偽装事件で逮捕された人々の裁判の決着がつきつつある。
 たとえばこの件。
http://www.yomiuri.co.jp/feature/fe5500/news/20060927i103.htm

強度偽装・木村建設元東京支店長に懲役1年6月求刑

 耐震強度偽装事件で、偽装物件を多数施工していた木村建設熊本県八代市、破産)が特定建設業の許可を受けられるよう不正書類を国に提出したとして、建設業法違反(虚偽申告)の罪に問われた同社元東京支店長・篠塚明被告(45)の論告求刑公判が27日、東京地裁であった。

 検察側は「債務超過に陥ったことを十分認識し、粉飾決算に積極的に加担した。この結果、行き過ぎたコストダウンに走り、姉歯秀次元1級建築士による一連の耐震偽装事件を誘発した側面もある」として、篠塚被告に懲役1年6月を求刑した。

 そもそも篠塚被告は姉歯建築士に強度偽装を強制したとして名指しされた人物だったらしいのだが、その後の調査では姉歯被告の虚偽答弁であったらしいとされて篠塚被告は「はめられた」という見方がマスコミでも一般的だ。別件の建設業法違反(虚偽申告)で検挙したのはいいが結局本命の偽装工作の責任を問うことは出来ずに今回の裁判は検察側の敗戦処理と見て良いのだろう。

 同じように、
http://www.yomiuri.co.jp/feature/fe5500/news/20061018i503.htm
とのニュースもあるがこれも本命の耐震偽装の罪は問われていない。

 被告の二人が道義的な責任を負うことは間違いないのだが一連の偽装事件の黒幕だったとは考えにくい、しかし事件当時の世間の批判をかわすための犠牲の子羊としての役割は十分果たした。被害者の方々はともかくも世間一般の人間は当時の怒りなどとうの昔に忘れているのだから。笑ったのは誰だったのだ?

 そして今また新たな羊狩りが始まった。
http://osaka.yomiuri.co.jp/news/20061017p202.htm
 出産中の脳内出血で母親が亡くなるという大変気の毒な事故なのだが医師が責任を負うべきか、と言うと話は別だ。ましてや警察が出てくるというのはお門違いと言うべきだ。

http://www.yomiuri.co.jp/iryou/news/iryou_news/20061019ik04.htm
これでは医師は仕事をやってられないだろうと思っていたら奈良県の医師会が素早く対応して「主治医の判断や処置にミスはなかった」と言う判断を示した。
http://www.asahi.com/kansai/news/OSK200610190064.html
 不可避の事故でも責任を問える、と言う安易な前例はむやみに残すべきではない。その負担は国ではなく国民の税金でまかなわれるのだから。