宮本邦彦警部は死ぬべきではなかった

http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20070320i213.htm?from=main2

ーーー宮本さんの行動に感銘を受けた約120人の人々が、列を作って冥福(めいふく)を祈った。
ーーー「新聞を読んで感動し、必ず来ようと思っていた。命をもって慈悲の心を教えてくれた」。
ーーー「従業員には、仕事をすることとは、社会に奉仕することだと話した。素晴らしい警察官がいたことを、大人が子どもたちに伝えなければならない」と語った。

2007-03-21 - 弁護士 落合洋司 (東京弁護士会) の 日々是好日

 亡くなられた宮本警部とそのご家族にとっては本当に気の毒な事件でした。しかし彼が職務を全うして亡くなったと賛美することには賛成できません。彼は自殺志願者を何度も引き止めようとしたが成功せず、最後に自ら線路に入り込んだ人を引き止めようとして列車に轢かれて殉職しました。無惨な死に方で家族にとっては到底受け入れられるものではないでしょう。どうせ死ぬなら二人よりも一人だけの方がましです*1

 現在の都会において鉄道での転落、飛び込みは毎日起きていて、日常茶飯事の出来事となっています。事故で転落する人もいますが自ら飛び込む人も多いでしょう。また車道に出ればどこでも危険はいっぱいです。危険地帯に身をさらす人を目撃して、その人を救うことが出来ずに凄惨な現場を眼にしてしまったら誰でも大きなトラウマを背負うことになるでしょう。しかしいけないのは危険地帯に足を踏み入れるひとであって、傍らにいる人が一緒に死ぬ危険をおかすことはありません。自分には家族や友人がいることを思い起こせば簡単に命をすてることなど出来ないはずです。

 今回の事件に対して安倍首相以下、警察、行政、マスコミをあげての殉職賛美が続いています。しかし本当にすべきことは殉職を悼んだ上でこのような事件が再発を防ぐために、1)危険地帯には足を踏み入れるな、2)いったん入ってしまったら誰も助けることは出来ない、という当たり前の事実を改めて周知することです。世論誘導のために今回の事件を利用する人が多すぎます。

 宮本警部が最後の最後に救出を断念してくれればどれほどよかったことかと思います。単なる飛び込み事故としてベタ記事に終わり、彼には人を救えなかったという悔恨が残るでしょうが家族を支え、警官としての職務を定年まで全うすることが出来たはずです。

 宮本警部は死ぬべきではなかった。

*1:自殺志願者は一命をとりとめたと聞きましたが