いなくなった二人の党首

 この数日でまた大きく動いてしまった。党首会談をどちらが持ちかけたのかは今になってはどうでも良いこと。小沢党首は福田首相から自衛隊の海外派遣に関して重要な妥協を引き出し連立の腹を固めたようだ。

 首相が決断した1点目は、国際平和協力に関する自衛隊の海外派遣は国連安保理、もしくは国連総会の決議によって設立、あるいは認められた国連の活動に参加することに限る、したがって特定の国の軍事作戦については、我が国は支援活動をしない。
http://www.asahi.com/politics/update/1104/TKY200711040096.html

 これは自民党にとって重要な政策転換だが、民主党においてはもっと重い政策だ。小沢党首は小出しに表明をしてはいたが具体的な方策はまだあきらかではなかった。国連決議のお墨付きとは言っても常任理事国ですらない日本が拒否権を持つ中国・ロシアに政策を左右される状況に陥るのは国家の安全保障を危うくする恐れが高い。テロとの戦いは母国の安全を担保するならばこそ成り立つ大義だ。日本と国境を接する中・ロにつけいる隙を与える政策が理にかなっているとは思えない。民主党左派でも、自民党でも支持をかちうるとは思えなかった。案の定民主党役員会では否決。ある程度根回しをはかったという報道は見たがこれは小沢氏が選んだ民主党幹部とはいえ拒まざるを得なかったと思う。

 党首会談から持ち帰った甘く強烈な劇薬を飲めと民主党幹部に迫って拒否され、一人だけ毒をあおって退く小沢氏。そこまで状況は民主党にとってもせっぱ詰まっていたと言うことだろう。

 今朝NHK日曜討論自民党から町村信孝官房長官大島理森国会対策委員長民主党から菅直人代表代行、山岡賢次国会対策委員長が出演した放送を見た。党首会談についてどう語るのか興味を持っていたのだが国策をどうするのかと問う自民側に対して、民主党側は燃料の分量問題、防衛庁幹部の不祥事のみをとりあげて話が全然かみ合わず町村・大島氏は苦笑いするばかりだった。菅直人という人物の器量が見えてしまい、とうてい彼に国政の責任ある立場を預ける事は出来ないと思った。討論は完全に自民側の勝ちだったのだが、割り引いてみれば菅氏は小沢氏の辞任の意向がすでに伝わっていただろうから気もそぞろだった事は否めない。

 自民党側の二人にかいま見える余裕はこれまで国政を預かってきた立場がそうさせるのだろう。政権に参加して責任をとる経験を積む事でこそ培われる風格というものがある。かつて厚生大臣を務めた菅氏がそうだった。その千載一遇のチャンスを見送った事で民主党は万年野党の立場を選択した事になるかもしれない。

 今回の小沢氏の無謀とも言える行動。つい二ヶ月前には安倍前首相からの会談提案を切って捨て、安倍氏を政権投げだしにまで追いつめた冷徹な行動とどうつながるのだろう?精神的・肉体的に追いつめられた前首相にとどめを刺したのは小沢氏だったのだろう。「負けたら引退」と公言して参議院選挙に臨んだ小沢氏は自分の引き際を探っていたことは間違いない。自分よりも若い首相の無念は十分に自覚していただろう小沢氏だからこそ、安全保障問題の持論に殉じて党内を強引にまとめることに賭けて自分なりのけじめを示そうとしたのかもしれない。