テロ

シーラッハによる法廷劇の戯曲。学校の道徳の課題に使われそうな「暴走トロッコ問題」では暴走する列車がそのままでは大人数の集団に突っ込む。線路を切り替えればその危険は回避できるが別の少数の鉄道職員を犠牲にする。車線切り替えに責任を負うものの判断を問うもので、命の価値を人数で計ってよいのかを考えさせる。
 この問題をテロリストにハイジャックされ、7万人が集まるサッカースタジアムに向かう旅客機を撃墜した空軍少佐に置き換えて、緻密な法廷劇で再構成したのがこの作品。命の価値は本当に無限大なのか、テロ発生時は平時か戦時か?、緊急避難処置としての撃墜は許されるか?、少佐の行為は憲法違反するか、政治と司法の無為が招く大惨事の回避を一人の軍人の責任に任せてよいのか?など様々な問題が提示される。最後に全く同一の事実認定に基づく有罪、無罪、二通りの判決が用意される。読みながらハイライトとメモをしまくった。短い戯曲だが随所に深い文章がちりばめられ、全く無駄な言葉がない。何度も言うけどこの作家は凄い人だ。

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