Influencial paper 1

Virology. 1969 Dec;39(4):930-1.
Temperature sensitive mutants of an avian sarcoma virus.
Toyoshima K, Vogt PK.


自分の科学観に影響を与えた仕事・論文を挙げろ、といわれれば最初の癌遺伝子同定につながるこの論文を挙げようと思う。古い論文だが学部時代に話を聞いて強い印象を受けた。Geneticsのパワーを明瞭に示す一作。

  1. 背景:Payton Rausが発見したRaus Sarcoma Virusがトリに肉腫を起こすことはよく知られていた。しかし癌化の原因はまだ不明だった。原因としては、Virusの増殖自体なのか、ウイルスと宿主細胞の相互作用なのか、それともウイルス側の特定の遺伝子の働きなのか、様々な可能性が考えられた。
  2. 実験:著者らはVirusのゲノム自体に癌化に特化した遺伝子が存在する、との仮定にもとづいて癌化が温度感受性になるがVirusの増殖自体には影響を与えない変異体の分離を試みた。その結果、高温下では形質転換活性が可逆的に失われる変異Virus株の分離に成功した。温度の設定が鍵だったという話です。
  3. 意義:単一の遺伝子によって癌化を引き起こしうることを明確に示したことで、「発癌遺伝子」の概念を確立した。癌ウイルスをもとにした発癌研究はこの後急速に発展することになる。変異株を一つ分離することで新しい概念を揺るぎなく打ち立てることができる、という点が学部学生だった私には驚きだった。