危機管理

 尼崎でのJR福知山線脱線事故に関してはJR職員の行動に関して様々な報道がなされている。あれはけしからん、と煽る論調が多いようだ。だがどのようにすべきだったのかについては報道の側から責任ある発言は聞こえてこない。これは難しい危機管理の問題だ。そこで乗客として居合わせた職員が、上司への電話連絡後に現場を離れて出勤した件に関して素人ながら考えてみたい。


 事故当時現場にいたJR関係者は車掌、乗客として乗車していた二名の職員と関連会社社員、そして死亡した運転手だったようだ。現場の大混乱を考えれば彼らはその場に自分以外のJR職員がいる事はわからなかっただろうし車掌を捜す事も難しかっただろう。彼らは個人で判断して行動しなければならなかった。


やるべき手順はこんなものだろう。
1.事故状況の把握。とりあえず現場を見て二次的な事故の発生を防ぐことが先決。
2.次に会社に第一報。ここで事故の重大さを伝えて、ダイヤ調整と救援の要請。
3.被害状況の把握、報告。
4.救助活動への参加。


会社への連絡に関して二つ問題点がある。

被害状況の伝達。

 今でこそ私たちはこの事故が107名の死者を出した重大なものとの認識がある。しかし事故直後にはどれだけの人が死んだかの判断はできない(これは医師の仕事である)。あわただしい状況で伝達できる事は、脱線した、マンションに激突、怪我人多数、すぐの復旧は不可能、といった程度だろう。この事実を切迫感をもって、上司に連絡して全社的な対応を依頼しなければならない。こういった連絡がなされていたかについて報道では明確ではない。

責任者への伝達。

 連絡を受けた上司は出社を指示したらしい。それは上司にとっては部下を出勤させることが第一の責任だったからだろう。事故に対しては全社的な対応が必要なので、更に上の責任者へ連絡があがらなければいけなかった。一番良いのは上司が判断して現場の状況がもっと上に伝わるように、部下に直接上に(社長室??)に話させるくらいであれば良かった、と思う。


 阪神大震災の時も地震直後にはその深刻さが官邸に伝わらず対応の遅れを招いて批判を浴びた。確か兵庫の選挙区に戻っていた議員が首相に直接電話で状況を説明して、緊急の対応を依頼したという話を聞いたことがある。現場に居合わせた人間が、責任を持てる立場の人に直接に状況を伝達できる態勢が大事だ。責任をとれない人間の伝言ゲームでは緊迫感が薄れてしまうのだ。


 救急蘇生法の講習には単純なマニュアルがある。これらの原則は今回のような大事故にも当てはまる。私はアメリカ留学中にボスがHHMIのInvestigatorに選ばれたおかげでハワード・ヒューズ財団の援助で講習を受ける事ができた。その骨子は3点あって以下のサイトにまとめられている。
http://www2.cc.niigata-u.ac.jp/Hoken/emergency.html
1.状況の把握。
2.緊急度のチェック。
3.助けを呼ぶ。


 今回はJR西日本が当事者だったが、社会人として生きるものとしては次回は自分が当事者として関わる状況に遭遇するかもしれない、との意識で今回の事故をとらえたい。