錬金術

 「現代の錬金術師」と名乗る物理学者の講演を聞いた。矢野氏は加速器を用いて元素と元素を衝突させて新しい元素を生成させる事で物質誕生の謎を探る事を目的にする研究者である。生物学の研究者に語るということで「二日間徹夜状態でしたよ」といっておられたが大変興味深い講演だった。思えば20世紀は物理学の時代だった。量子論相対性理論など、我々の物質の認識を揺るがすアイデアが次々とでては様々な方法で検証されるという事が続いた。私自身はその真価を理解しているとはとてもいえないのだが一流の科学者が研究のおもしろさを伝えようとする語り口からは、「あっ、この人は一流の科学者で、とても真摯に話してくれているんだな」ということがストレートに伝わってくる。巨大な加速器を建設して実験を重ねに素粒子物理学家内工業的な生物学とは対極的な位置にあるサイエンスだと思っていた。しかしお話を聞くと100名を越えるような多数の参加者を抱えるプロジェクトでも加速器という共通のプラットフォームを共有しながらも各自は独自の課題を見つけて追求することができるのだという。先日話題になった113番目の元素の発見は加速器研究の副産物として1名の研究員の仕事としてなされたのだそうだ。研究者の個性を生かすことができるサイエンスだという意味で物理学も意外と人間くさいところがあると認識した次第。発生生物学の研究所で物理の話など誰も聞きにこないかも、と考えたのは全くの杞憂であった。