異常を通じて正常を知る

 大隅典子さんの日記にこんな記事があった。

2年前のことになる。
とある研究費のヒアリングで自分の研究計画のプレゼンをした直後、選考委員の方から開口一番に「(精神疾患のモデルとなる)病気のマウスを調べて、どうして脳の正常な発達を理解することにつながるのですか?」と聞かれ、目が点になった。
「遺伝子変異を有し、行動異常を示すマウス(実はラット)を調べて野生型と比較することにより、正常な発達の遺伝的プログラムを明らかにすることができると思いますが・・・」とかなんとか答えたはずだが、一瞬何を聞かれているのか分からなかった。

 こういう直球を投げ込まれるとひるむ、ということはよくありますね。私なりの答えを考えてみました。

 精巧に作られた時計の針が正確に動くのを眺めていても何で時計が動くのかわからないじゃありませんか?

 どうやったらわかるんですか?

それは時計のふたを開いて中の部品の構成と構造を知ることから始めるんです。この作業を生物学者は形態学とよびます。

 では構造がわかったら時計が動く仕組みがわかりますか? 

 いいえ。個々の部品の働きがわからないと仕組みはわかりません。

 その部品が大事なのかを知るのはその部品を取り外すのが近道です。

 文字盤の数字を取り外しても時計は動き続けますが中の歯車をはずしたら時計は止まってしまいます。だから私たちは歯車が大事な事を知るのです。

 部品を取り外す作業を私たちは遺伝子を壊すということで行ってます。これが遺伝学です。

 勝手に壊れてしまった時計を眺めても時計の仕掛けはわかりません。しかしどの歯車が取り外されてために時計が止まったのかがわかっていれば時計の仕組みの理解が進みます。歯車をひとつひとつ取り外して試していくうちに突然の故障の原因も探り出す事ができるでしょう。そして歯車と部品から時計を組み立てる事もきっとできる事でしょう。

 以上、解答終わり。でもこんな話をしていたら質疑の時間がなくなってやっぱり不採用になるんだろうな。

部外者の投げる直球をあわてず打ち返す冷静さを持ちたいものだ。