プーシキン美術館展

 行ってきました。素晴らしいコレクションですね。気に入った作品をいくつか挙げておきます。

金魚(マティス

 画の前に立つとさっと眼に飛び込んで来た。色彩が素晴らしい。中央部のピンク色のテーブルにはビーカーのような水槽に真っ赤な金魚が4匹。緑の葉っぱが取り囲む。右上には紫色の花がいいアクセントになっている。そしてぱっくりと開いた口の金魚がとぼけた顔をしているのが面白い。

刑務所の中庭(ゴッホ

 絶望感あふれる作品。煉瓦積みの狭く暗い中庭で力無く歩く囚人たちの顔は青く暗い。陽光は周囲の壁を囚人たちの頭のすぐ上まで届いている。頭上の光だけが救いなのだが彼らは見上げようともしない。囚人の歩行姿勢が画面にリズム感を与えているが、円を組んで右むきに回り続ける様子は彼らには出口がないことを示している。

母の接吻(カリエール)

 モノクロの世界に母親と二人の顔だけが白く浮き上がる。穏やかで暖かい作品だ。こういう母親のような女性に抱かれたい、という願望を抱かせる。隣に置かれたのがゴッホの絵だっただけに、コントラストはひときわだ。初めて見る作家の作品なのだがとてもよい。

他にも・・・

 黒い服の娘たち(ルノワール)、白い睡蓮(モネ)、彼女の名はヴァイルマティといった(ゴーギャン)、アンリ・ルソーの作品、などなど良いものがいっぱいだ。

そもそもなぜロシアにあるの?

 ロシアになぜこれだけ豪華なコレクションがあったのか?主な収集家のシチューキンとモロゾフ帝政ロシアの大富豪で、なおかつ美術品の目利きだったそうだ。パリに出かけては気に入った作品を買い込み、ロシアに持ち帰った。しかしロシア革命社会主義ソビエト連邦になってから彼らのコレクションはすべて没収されてしまった。二人の収集家は国を追われ、異国で不幸な生涯の終わり方をしたそうだ。これらの作品が社会主義政権の元で、ブルジョワが道楽で集めたものとして売り飛ばされていたりしたらどうだっただろうか?またフランス人にしてみれば東西冷戦時代の敵国ソ連が自国の重要な作品を所有していることに関して快く思っていなかったのではないだろうか?ともあれ波乱の20世紀だったロシアの動乱を耐えて来た歴史を思うと作品を見る気分もひとしおだ。