一九三四年冬ー乱歩

一九三四年冬―乱歩 (新潮文庫)

一九三四年冬―乱歩 (新潮文庫)

 江戸川乱歩という実在の探偵小説の大家を主人公にして彼が40才の冬の四日間を描いたフィクションである。久世光彦氏は大胆にも乱歩を臆病で神経質な男としている。作品を書けなくなってスランプに陥った乱歩が家出をする。乱歩は40才を迎え、老いを自覚し始める。ライバルと目される作家達の活動と批判に怯え、才能ある若い作家達が夭逝するのを見送り自分が生き続けていることに罪悪感を感じる。でも聡明なアメリカ人の人妻に心ときめいたありするところにくたびれながらもしぶとい中年男の煩悩があらわれている。なんと言っても乱歩が真面目に悩めば悩むほど滑稽になる行動がおかしい。乱歩は薄くなった頭髪と、局部に発見した白髪に自分の老いを自覚し、若い中国人の美青年の貌を眺めて若さを取り戻そうとする。大作家をこんな風に描いていいの?と思うのだが乱歩の人間臭さが表れて面白い。女性と若者の受けは悪かろうが中年男性には支持されるだろう。

 私にとって面白かったのはスランプに陥った乱歩が様々な体験に刺激を受けて作品を書けるようになる下り。書くことに煮詰まったら家出して気分転換をはかろう!というのが教訓だ。