「吾が故郷」松之山

 レース観戦の帰り、時間があったので梅田の富士フォトサロンに寄ってきた。展示されていたのは佐藤一善氏の作品。「フォトコンテスト」5月号に一部が紹介されていたが雑誌のページと比べて実物のプリントは色の鮮やかさやディテールの見え方の点で大違い。更に違うのは展示会という場で鑑賞するという見る側の心構えだろう。小さく印刷されたものとは発色、構図など格段のすばらしさだった。大きく引き延ばされてはじめてわかる小さいが重要な役割を果たす被写体の存在に気づかされたものがたくさんあった。


 作者の佐藤一善氏がいらっしゃったのでお話を聞くことが出来た。新潟県の山間部で地元の風景をこつこつと撮ってこられたのだそうだ。農作業をしている夫婦をきれいな構図に収めた作品について尋ねた。「この構図を決めるまでにどれくらい時間をかけられたのですか?」、「いやー、歩いていってすぐ撮っただけですよ」。


 そんな事はないでしょう?山陰の水田に谷の向こうの紅葉が映り込むのを撮った作品、夕刻の数分間だけ見える光景だそうだ。ふらっと歩いていってさらっと撮るために何年もかけて研究した撮影スポットをたくさん持っておられるのだろうな。


 とても素晴らしいものを見ることが出来た。写真でも絵でも、そして映画でも映像作品はどれでも本物に勝るものはない。印刷物やビデオに押し込まれたものでお茶を濁す前に、実物を見るために足を運ぶ手間を惜しんではならない。