Pandora

Pandora

 年期を重ねてくると音楽の趣味は保守的になる。CD屋を巡回しても手に取るのはお気に入りのミュージシャンの作品ばかり。かくして家にはマイルスやコルトレーンばかりが並び気がつくとレコードを所有しているのに同じアルバムでCDまで買ってしまうと言うことが連続する。タワーレコードの試聴コーナーで探すのだがどうしても耳にできる作品の数など限られている。結局世の中の音楽の豊富さに比べて個人がブラウジングできる曲の数とそれに費やすことのできる時間などたかがしれているのだ。

 タイム誌の"Fifty Coolest Websites" で紹介されて話題になっていたサイトからPandoraを発見。

機能

  1. 音楽のストリーミングラジオ
  2. しかし単なるラジオ局とは事なりユーザー個人の好みを反映した選曲をおこなう。
  3. Stationの選択:ユーザーのpreferenceは好みのmusicianもしくは好みの曲を指定する事でおこなう。
  4. Pandoraは指定された音楽の傾向を解析して、その同傾向の曲を次々と選択して流してくる。
  5. ユーザーは曲毎に"I like it", "I do not like it"の判断を示すことができる。Pandoraはユーザーの判断を元に曲の選択傾向をアジャストする。オプションのメニューでブックマークしたりiTunes/Amazonで購入するためのリンクもある。
  6. Stationは100局まで指定可能。

Music Genome Project

 Pandoraが曲の類似性を導く根拠になっているのがこのデータベースだ。曲を音階、カテゴリー、リズムなど100以上の要素(彼ら曰く"gene")に分解し、分類したものらしい。細かいノウハウはあきらかにされていないが1万曲以上の曲を収容しているらしい。
例:Pandora


 私たちが研究として行っているデータベース作成とは多面的な正確を有する対象(遺伝子、突然変異、蛋白質、など)を記載する項目をカテゴリー分けする作業だ。これはヒト個人の身長、体重、学業成績、身体能力、病歴、などの特性を網羅したカルテを作成するようなものだ。これをアノテーションという。項目分けが的確で、なおかつ客観的な判断にもとづいていれば項目の数が多ければ多いほど細かい分類分けができる。そして大量のデータの解析から新しい関係性が見えてきたりする。

 いったんアノテーションさえされれば後は音楽でも遺伝子でも方法は同じ。Music Genome Projectでは音楽特有の特性をつかんだ項目分けを工夫しているようだ。

すごいところ

 Pandoraがすごいところはなんと言っても提案してくる曲が大体「どんぴしゃ」で当たりな事が多いことだ。優れたアノテーションにもとづいたデータベースの優秀性を証明するものだろう。
 そして全て無料な事。広告なしの有料オプションもあるのだが無料バージョンと機能は変わらないしFirefoxだとポップアップがブロックされていて特に不快に感じることもない。

Pandoraはどれくらい物知りか?

試しに"The Allman Brothers Band"で始めて見る。
  1. Jassica, The Allman Brothers band ○
  2. Curse by Drumpstruck ×
  3. leave My Blues at Home by The Allman Brothers Band ○
  4. The Eagle never hunt the fly by The Music Machine ×
  5. Had to Cry Today by Bind Faith
  6. Young man blues by the Who ×
  7. Intro/Sweet Jane by Lou Reed ○
  8. Hours Of Darkness Have Changed My Mind by Felt ○
  9. If Six Were Nine by Roy Buchanan ○
  10. I'm Gonna Move To The Outskirts Of Town by The Allman Brothers Band ○

アメリカのミュージシャンだから当然出てくる。選ばられる曲の傾向としてThe Allman Brothers Bandと同時代の作品が多い。Roy Buchananがでてきたときには感激。リスナーの涙腺のツボを押さえているのである。

ではアメリカのポピュラー音楽以外ではどうか?
  1. クラシックはどうかと思って"Mozart"を入力するが反応なし。
  2. Eric Satieも反応なし
  3. Astor Piazzorraには反応。
  4. 日本のmusicianはどうか?Gontitiは反応なし。
  5. SUKIYAKI上を向いて歩こう)には何人かのアーティストが出てくるが肝心の坂本九は出てこない。
  6. Puffyには反応したが選曲からして「あの」Puffyではないようだ。
  7. なんとUtadaには反応あり。ただし選曲は×。彼女のアメリカでの売り出し方の傾向がよくわかる。

 なのでPandoraの得意範囲(アメリカンポップス、ロック、ジャズ)であれば適切な選曲が期待できる。

結論

 Pandoraはインターネットのリンクをたどったり、検索サイトをたぐるような感覚で未知の音楽への扉を開いてくれる。かつて聞いたこともないmusicianやアルバムに引き合わせてくれ、音楽の無限の宇宙を旅するナビゲーターとして欠かせないツールになるだろう。より広い音楽ジャンルへ広がってほしいと期待する。