Coming to life

Coming to Life: How Genes Drive Development

Coming to Life: How Genes Drive Development

 昨今の生物学の教科書は大部で読み通すのはとても大変だ。本書は発生学の大御所のNusslein Volhartが初めて書いたコンパクトな145ページの教科書。彼女が膨大な情報をどうまとめるかに興味があったのだが直球勝負で生物学の歴史から始めて、遺伝学の勃興を説明してから細胞生物学と発生学の基本コンセプトを。経験豊かな彼女のフィルターをかけてより抜かれたトピックに平易にまとめている。意外な事にも古典的教科書"Molecular Biology of the Gene"を思わせるように遺伝学と遺伝子の概念の解説に手間がかけられている。それから発生遺伝学に入り、プレパターン、モルフォゲン、分節化などのトピックに入る。こちらは彼女が開拓した分野なのだが特に自分の貢献を強調することもなくバランス良くまとめてある。
 読んで改めてわかったのは彼女はルーツはやはり分子生物学者だと言うことだ。生化学から転じてショウジョウバエ遺伝学に入った彼女は発生を遺伝学の記号論で説明することに邁進して、ついにショウジョウバエでそれが可能であることを示した。彼女にはハエが遺伝学に適したツールという認識はあったが必ずしもハエと心中する気などさらさら無かったようだ。彼女はその後ゼブラフィッシュに転じたが、これは脊椎動物でも同様な記号論の可能性を見て取ったからだろう。ロジックを見いだすツ−ルならばバクテリアだろうがヒトであろうが手段は選ばなかったのだと思う。

 冒頭で彼女は生物学の魅力についてこう語っている、

   The low of physics and chamistry tell us the only chaos will develop of its own. And yet, in living beings order does prevails. So the question is: how does order prevail and, more importantly, how does order evolve in the first place?

 生命がエントロピーの増大に抗して増殖を続ける、この最も根元的な問いを忘れずに問い続けることにこそ彼女の成功への鍵があったのだと思う。目先の面白いものに目移りする態度は戒めなくてはいけない・・・。

 飛行機の中で読み通すことが出来たのだがその理由は平易にまとめたトピックで特に私には目新しい概念が出てこなかったからでもある。その意味でこの本は始めて生物学に取り組む学生が高度な教科書を読む前段として読む入門書として優れたものだ。