闇の子供たち

闇の子供たち (幻冬舎文庫)

闇の子供たち (幻冬舎文庫)

映画の内容が気になって原作も読んだ.
ストーリーのポイントは映画とだいたい同じ.ただし臓器移植よりも幼児売春とタイの犯罪組織の記述にバランスがシフト.重いテーマが雑多に交錯して映画同様に消化不良.しかし記述を読むことで映画のシーンの意味付けが理解できた.音羽恵子はやはり映画そのままの向こう見ずさで一本気のキャラ.だからこそ役者にとって役作りで深みをつけるチャンスだったのにと思うと残念だ.問題のエンディング部分は映画のオリジナル.あれで決着が全く異なってしまった.原作では南アジアの貧困に根ざす人権侵害が、奴隷商人たちの陰謀と政府の腐敗とにより闇に葬られ、無力感を味わいながら終わるのだが、映画版では主人公の過去を暴いて日本人の贖罪意識に訴えるやり方で終わる.さすがに原作どうりではタイ側の制作者も呑めなかったのか、日本人を標的にする方が日本人にとっても受け入れられると踏んだのか、それともスポンサーの意向を反映したか?

 この作品を文章で読むとこの原作の意図が曖昧なことがわかる.小説として読むならプロットが雑で何ら魅力のある作品ではない.ドキュメンタリーとして読むなら核心の人身売買と臓器移植の取材不足は否めず、単に幼児虐待シーンのおぞましさがだけが際立つ.そんな作品の作りのまずさが、書いてある内容を受け入れることを躊躇させるのだ.この作家は真実を小説に仕立てて書いたのか、それともセンセーションを狙ったキワものなのかの判断を私にはつけられないのである.やはり地道な取材と事実に支えられた報道に勝るものはない.

追記

  1. 最近叫ばれている児童ポルノ画像の所持規制の問題はここに根がある深刻な問題なのだとはじめて理解できた.やっぱり表現の自由などと叫ぶ前に流通させては行けない映像なんだと思いますよ、これだけは.
  2. もう一つ話題のインドにおける卵子を買い取っての代理出産.ここにも同じ根を共有する問題がある.