万代島美術館

 学会会場に隣接した美術館に立ち寄った.「記憶のかたち」と題された展示会は新潟県の作家10名の作品を個別のブースを設けて10点程度ずつ展示する形式.お名前は知らない方ばかりだったが鑑賞してみてその内容の高さにびっくり.

西村満:どんよりとした海辺の光景.気が滅入りそうなモチーフなのだが掘建て小屋の壁面に控えめに加えられた暖色が光る.広角の画面が薄暗いながらも開放感を与える.廃墟の光景を描いたシリーズもなぜか心を引かれる.

麻績勝広:海辺の砂利をひたすら丹念に描写した作品「海の小石」が驚異的.一つ一つの石は波に磨かれ様々な色で輝く.遠方に至るまで実に丹念に描かれている.画面がとても安定して感じられるのは石の配置や配所に細心の注意が払われているからなのだろう.

小林充也:暖色をちりばめたメルヘン調の作品.農家のおばあさんが野菜を積んだ一輪車を押して家路を急ぐ姿を描いた作品「帰り道」.夕暮れの橋を渡るおじいさんを描く「夕暮れ刻」は構図がムンク「叫び」を思いださせるところがある.しかし暖かい色使いと笑顔のおじいさんは心身を落ち着かせる効果がある.

稲田亜紀子:暖色に包まれた少女の像.眠る姿を描いた「碧の記憶」と「記憶の在処」が良い.

近藤充:ギャラリートークのために来館されていた.遅くまで残っておられたのでお話を聞く*1

Q1
私(以下R)「ストーリー性豊かな作品が多いですがどのような発想で描くのですか?」
近藤画伯(以下K)「作品中の女性にメッセージを語らせる役割を与えるのです.」
R「なるほど巫女さんのような役割ですね.どうりで若い女性がおおいような・・・」
K「何重にも異なる絵を書き込むことで重層化した世界を想像させます」「象徴的なモチーフ(舟、花、女性、翼)を書き込むことで受け入れる人の深層の記憶を呼び覚ます意図があります.ダヴィンチ・コードで話題となったような象徴的なものの効果を狙ったもののです.」
R「見る人たちが文化の伝承の中で象徴に反応できる共通の知的体験を共有しているということでしょうかね〜.」
(女性に重ねて描かれた半円の影が膨らんだおなかに見える、という種明かしがなされて絵を見て感じた違和感が解けた)

Q2
R「緻密な構図が多いですが作品を描くときには下絵の設計をどれくらいしますか?」
K「重ねて書き込む作品では実寸大の下絵で構図をを研究し、絵の具を書き込む順序まで決めてから書き出します.しかし下絵なしに一気に描くこともあります(例 未生/現生/後生).」

Q3
R「正方形を45度回転させた菱形のフレームを使った作品がありますがその意図はなんでしょう?」
K「菱形は絵の世界を背景から切り離す効果があります.一方で横置きの構図は絵の世界が背景へ拡張して行くような効果を与えます.額縁や絵のコラージュの仕方で新たな効果を狙うこともあります.」

Q4
R「縦にいっぱい筋が入った作品がありますね」
K「絵の具をたらして描きました.筋の長さが様々で時間の進行を感じさせる効果を狙いました」
R「なるほど.雨だれのようなリズムを感じさせますね」

会話を通じて画家の方々が一枚の平面に多くの情報を整理して凝縮させ、見る人の深層心理に直接メッセージを伝える工夫を絶え間なく続けておられることがよくわかった.素人の質問にも気持ちよく答えてくださりとても良い会話ができました.どうもありがとうございました.

 日曜ながら来館者は多くはなく、おかげでじっくり作品を楽しむことができた.今回の作品展は個別のブースのスペースが大きかったので10の個展を見て回ったような感じでお買い得.良いものを見れて満足.

*1:私の聞き取ったことを記憶にもとづいてメモ.正確な発言とは限りません