インド雑感

インドからの帰国.考えることの多い訪問だった.
写真はここ> http://www.flickr.com/photos/roadman2005/sets/72157628864980369/

1)調整日の休日にデリーからアグラ往復の強行軍.両都市を結ぶバス道の脇には学校、工場、耕作地、小都市が続く.すべての土地が無駄なく利用されているとの印象.

2)デリー郊外に走るメトロの駅周辺には通勤に急ぐ人々があふれる.車は急接近し、割り込みが頻発.クラクションが鳴り響く.切符売り場では割り込みが常態化して、行列は崩壊.しかしながら不思議と険悪なシーンはみられない.譲り合うことをしないが、争いも避ける思慮がある.

3)彼らは常に周囲への注意を怠らない.カメラを向けるとすかさず視線を飛ばしポーズをとってくれる.携帯で叫ぶように話す人は多いが日本でみるようなうつむいて画面を眺める人はいない.常に人と肘を突き合せる生活が彼らの環境へ感度を高めているようだ.

4)空港、駅、ホテル、商店、どこに入るにもX線の荷物検査と金属探知機での身体検査.宗教対立によるテロ対策のようだ.銃器を手に警戒にあたる警官を前にして、人々は整然と並んでいる.ラッシュアワーでは大混雑.

5)テロの背景にはヒンズー教原理主義者による少数宗派(回教、キリスト教)への弾圧があるらしい.一部の過激派のおかげで社会が治安維持にかける膨大なコストを払わされている.http://mediamarker.net/media/0/?asin=0143029940&au=roadman2005

6)街の女性は颯爽と闊歩しているが、男女の区別は明確.しかし車は運転せずバイクの後部座席やリキシャを利用.メトロの女性専用列車は厳格に運用.身体検査は男女別の列に分かれる.優先席に座る紳士に話しかけて席を交代させる母子をみた.インド女性は写真を撮られることを好まない.

7)インド研究者の世界には女性は多い。

8)デリーからバンガロールへ移動.飛行機から見下ろすデカン高原の大地に延々と耕作地が続く.これだけ広大での肥沃な土地があの人口を支えている.

9)バンガロールの空港から市内に続くハイウェイ.「あっちにIBMアクセンチュアが進出した」とドライバーが教えてくれる.IT企業だけではなく投資会社もここに.

10)建設現場が多く活気にあふれる.人々の身なりはこぎれい.デリーに比べるとサイクルリキシャは姿を消し、車は一回り大きい車種が主体になる.路肩まで舗装は進み、乞食は見当たらない.ドライバーの運転ぶりもやや穏やかでクラクションも少ない.

11)市内道路の至る所に速度制限用のバンプがあり、その度に減速・加速を繰り返す.信号が少ない分これで交通を制限しているのだろう.安上がりの方法だ.

12)訪問先の研究所(NCBS)は町外れの丘の上にある.広大なキャンパスを持ち、研究所棟に加えて広大な芝生広場、プールにテニスコート、ジムを完備.各所にカフェテリアをそなえてtea timeにはカップ持参で人が集まる.大学院生主体なので平均年齢は若い.気候は暖かく乾燥し、虫も少なくとても快適.設備は拡大中で欧米の一流研究所と比べても遜色ない.

13)研究集会で同席した若いゼブラフィッシュの研究者.私が昔PuneにModak教授のお世話で滞在したことを話すと、実は彼はModak先生の学生だったことが判明.世の中は狭い.あのとき日本から持ち込んだマイクロインジェクション用顕微鏡(インジェクトスコープ)は残っているんだろうか?

14)学生は皆英語を話し、快活.週末、夜には人影が少なく日本人ほどハードワーキングではない.しかし彼らの立ち居振る舞いと表情には余裕があり、議論を楽しみつつ思索を深めるやり方を知っている.正直こういった会話のできる日本の学生に会った経験が少ない.

15)デリーでは荒れ放題の街路に住む乞食がいまだにいて驚いたが、バンガロールでは充実した社会インフラに驚く.インドの二面性を代表する二都市を訪れて得た印象は「インドはまだまだ伸びる」ということ.

16)デリーのスラムに住むサイクルリキシャのドライバーが携帯電話を所有し、自家用車も手に入れようとしている.階級制度の矛盾と様々な政治問題を抱えつつ、インドの経済発展はこれから20年は続くだろうとの見方.格差は拡大しつつもそれぞれの層は確実に豊かになっている.富裕者向けの教育は少なくともかなり充実しているようで、ますます優秀な人材の宝庫として栄えるだろう.インドとの関係をますます大事にして行かなくてはいけない.