福島個人ゲノム解読のニュースに関して

環境省は31日、東京電力福島第1原発事故による被ばくが人の遺伝子に与える影響について調べるとして、福島県内の希望者のゲノム(全遺伝情報)を解析する調査を来年度から実施する計画を明らかにした。」(毎日新聞

 この計画は細野環境大臣が発言したものとされ、福島民放によれば子供中心に調べる,とされている.計画の詳細がわからないので評価のしようもないが、直ちにゲノムを読んですぐに異常が有るのかないのかわかるのか?との疑義は科学者から山のように発信されており、私も大いに疑問だ.公共工事として地元にお金を落とす,ような発想では成り立たない.

 背景を推定すると、原発対策に福島県に投入されるであろう多額の予算を環境省原発の影響調査の名目で獲得しようとして打ち上げた計画ではなかろうか?このようなケースでは予算は確保されていて、とにかく大きな額を使えるプロジェクトを探すべく官庁が走り回る.そこにゲノムを読む名目で大型予算とれますよ,と囁いた学者がいたに違いない.細野大臣が科学的な詳細を策定する訳ではないので批判・提言は立案・実行する科学者に向けて建設的なものでありたい.いくつか考えた事を書いておく.

1)放射線が生物に及ぼす影響の総合的調査は行うべき.ゲノム解析はその一環として含め,放射能の分布,生態系の遷移などと合わせる事でより妥当な解釈に近づけるはず.DNA標本はきちんと採取・保存した上で、特定の遺伝子の比較からはじめるのが良いのではないか.ただし全ゲノム配列決定のコスト,解析技術が改善すればそっちにシフトすれば良い.

2)ヒトではなく動植物で行う事が有効.震災前後の標本があり,移動が制限されて,被爆量との関連が論じやすいものが良い.ホットスポットで採取される微生物,植物、農作物(コメ、野菜の種子)、現地で継続的に研究されていた昆虫(ヤマトシジミ、ワタムシを含む)などはどうだろう.また「福島」だけではなく全東北,関東地域を対象として客観性を高めるべき.

3)ヒト対象のゲノム研究で健康に関する確定的な診断が出来る段階にまだない.あくまで基礎研究としての価値はあるが、どのような臓器,細胞を対象とすべきなのかをがん・ゲノム研究の専門家の意見を重視して検討しなくてはならない.ヒト対象なので個人の家族歴,移動歴を含めた総合的な,全国的な調査が長期間継続する必要がある.

4)このような状況ではともかく結論ありきのまとめ方にバイアスがかかる事.福島が行う,福島のための研究では不十分であくまで客観的なデータの提示に徹するために複数のグループがクロスチェックする体制が望ましい.結果,結論は科学的にもニュース的にも退屈なものになる事を覚悟したうえで長期間のサポートが必要だ.

http://www.minpo.jp/globalnews/detail/2012083001002185
http://mainichi.jp/feature/news/20120901dde041040024000c.html