罪と罰

 昨夜は帰宅時に雨が降り出し濡れてしまいました。久々の雨だったのでアスファルトが水を吸って水蒸気が昇り立つ独特の匂いを嗅ぎました。自転車で通勤すると気候と天気の変化に敏感になります。

 さて大隅典子さんの記事を見て大阪大学の生命機能科学研究科から報告書が出された事を知りました。科学的欺瞞を論証するためには事実の提示とその科学的な検証が欠かせません。データ操作の事実とその責任の所在についてきっちりと論証されている報告で、問題になった二本の論文に関しては決着がつきました。問題発覚から二ヶ月足らず、その間に様々な出来事があったことを考えると遅いとは思いません。関係者の努力は評価すべきだと思います。

研究科長談話では冒頭で

科学研究は、自然界についての真理(真実と原理)を明らかにする行為であり、科学者はその行為を社会から委託されています。

 と述べて科学的欺瞞は社会からの委託に対する裏切りであると定義しています。単に職務規程に違反したから、と切って捨てるのではないという事で、他の研究機関が捏造行為に対処する際の指針にもなりうるものです。

 また杉野教授に対しては大学当局から懲戒解雇という処置が検討されていると報道されています。あえて書きますが今回の二件の論文捏造行為に対してだけの処置としては少し重すぎるのではないかと感じました。今回の件で私腹を肥やしていたと言う事実はありません。杉野教授はこれまで長い間生命科学の世界で活動してこられた方です。今回の疑惑によって杉野教授の過去の業績は再検討を迫られることになるでしょう。その評価を待ってから処置を検討しても遅すぎることはないと思います。教授に対する非難とバッシングの嵐の中で拙速に処分を急いで判断を誤らないように願いたいと思います。


 しかし一方で川崎泰夫さんの死を巡る経緯については触れられていません。この件については亡くなった方の心の内面に踏み込む必要があり、もはや科学的論証の対象とはなり得ません。アカデミックハラスメントを扱うような別の委員会が事実関係を調査して開示する必要があるでしょう。すでに対応は始められているものと信じますので事の経緯を待ちたいと思います。


 stochinaiさんからTBを頂きました(人事委員会の責任)。事件の遠因には教授人事の選考過程に問題があったのではないかという主張です。しかし私にはそれが緊急の課題だとは思えません。今回の事件で次にやるべき事はまず研究室管理が適切だったかの検討、次に杉野研究室の過去の業績の信頼度の検討でしょう。仮に問題が赴任当時にさかのぼれる事があきらかになった時のみに人事選考の評価方法に反省を求めるべき事態になると思います。一般に人事選考は将来性を評価して赴任後の伸びを期待して決定する事が多いです。もちろん判断の誤りも起こりうるわけでそのリスクも覚悟の上で人事は行われます。むやみに「過去の反省」を迫るのではなくさらなる事実関係の把握の上で事件の再発を防ぐ地道な教育活動と研究者の意識向上に努力を向けるべきです。

追記

 stochinaiさんと大隅さんにTBを送ったつもりが失敗していたようなのでやり直します。