科学者の資格

私は生物学の研究を生業にしている科学者である。


生命科学の大御所Y先生のBlog (http://mitsuhiro.exblog.jp/)、先週始まったばかりだが同業者のあいだではすでに大反響。私がこの道に入ったに駆け出しの当時にY先生の研究室で半年間御世話になったことがある。当時から毒舌で鳴らしておられたが最近は更に磨きがかかってきた。おそらく日中でも相当しゃべりまくっておられる(私の友人談)のにそれでも足らず就寝前に日記をしたためておられるようである。たぶん寝る前に考えていることを全てはき出しておかないとゆっくり眠れないのかな、と思う。しかしそれが大変におもしろく役に立つ。


 さてこのBlogの3/17日の話題「科学者になるには」では科学者になる資格として以下の4点をあげておられる。1)好奇心、2)段取りの能力(これは要領の良さ、といっても良いでしょう)、それから3)教養、に続いて4)としてすばらしい科学者との出会い。この文章は科学者を将来の職業として考えている小中学生に向けた体裁をとっているが実は大学生、大学院生に向けてのメッセージとして私はとらえた。


 まことに恐れながら私から更に条件を追加したいと思う。


5)体力
 科学は息の長い営みである。高い頂きに向かって一歩一歩進み続ける力が必要だ。肉体的な体力は若いうちに蓄えておけば30台は乗り切れるだろう。やる気を絶えさせない精神的な体力の向上も大切なことだ。
6)人間としての魅力
 結局のところ科学は人間の営みであり、大事な発見は他人との何気ないやりとりから生まれることが多い。また研究者人生を左右する転機の多くも第三者の手(指導教官、とか)にゆだねられる。人として魅力のある人にはチャンスを手に入れる機会が増えるはずだ。
7)決断力
 多くの人にアピールする研究成果には必ず明快な結論と深い洞察が含まれていなければならない。ある結果を説明するのに異なる二つの説があったとする。証拠を整理した上でどちらを支持するか、最後は研究者の決断にゆだねられる。また仕事の方向を決める際にも戦略的な決断を求められることがある。機を逃さず状況を判断して最良の判断を下すためにも若い頃から責任を持って決断を任される立場を経験しておくのは大事なことだ。
8)信義
 科学者のあいだは様々な機会に人からの評価を受ける。学会での討論、学位の審査、研究費の審査、論文の審査、など人からの評価をうけるとき当の本人は誰が自分の審査をしているのかわからないことが多い。評価は提出された資料(論文など)に基づくことが多いが評価者も人間。被評価者の人間性によって評価は確実に左右される。

 科学者の世界は狭いものだ。信義を軽んじてはいけない。
9)研究以外の趣味を持つこと
 科学者は真理を追究するという究極の道楽を許された選ばれた人間のことである。科学者として選ばれるということは生涯に渡って保証されるものではない。科学者を目指す人でも自分が科学者を続けられなくなったら何が残るのか、考えておく必要はある。研究以外の趣味は科学者としての自分を第三者として見つめる眼を養ってくれる、という意味で大事なことだ。


とりあえずここまで。お休みなさい。