Nature 437, 560-563
Dependence of Drosophila wing imaginal disc cytonemes on Decapentaplegic
上記の論文を読んで考え込んでしまった。まずはサマリー
ショウジョウバエの翅成虫原基には膜結合型GFPによって標識される細胞突起がある。著者らは以前この突起をcytonemeと名付けて、FGFによってその伸長が誘導されると報告していた。その機能については不明であった。
今回の報告の主なポイントは以下のとおり。
- cytoneme翅原基の前後だけではなく、背腹軸方向にも走り背腹コンパートメント境界に向けて走行する成分もある。
- cytonemeの進展はDppシグナルを必要とし、なおかつ過剰なDppシグナルはcytonemeを新たに誘導する。
- Dpp受容体TkvのGFP融合蛋白を過剰発現させるとcytonemeの中で移動するところが検出される。
評定
- モルフォゲン分子が遠距離を移動して標的細胞に到達するメカニズムを説明しうる。
- しかしこれは前の論文ですでに考えられていたことですでに新奇の概念ではない。
- 拡散やtranscytosisに取って代わるモデルではない。
- 活性の勾配がどう作られるかの説明は難しい。
- Dppがcytonemeの誘導因子かもしれない
- Dppがcytonemeの方向性を決め得るかは不明。
- FGFはどうなったのだ?
- Tkv-GFPがcytonemeに侵入するのは過剰発現によって異所的に局在したという考えは否定できないだろう。
- 背腹方向には何が誘導して、その突起は何をしているのだ?
- cytonemeはDppに誘導され、そしてDppを受容するという
- その本当の役割は何なのか?
考察
cytonemeはまだその存在が人々に知られ始めたばかりの状態だ。他グループによる追試をうけ、幅広く展開することによってこその機能の理解に通じる道が開けてくる。その点で10年後にcytonemeの概念が生き残るかどうかは今後の展開にかかってくるだろう。
しかしこの論旨を読むと実は巧みなトラップが仕組まれていることに気づく・・・
cytonemeのような新奇の構造体の機能を検討する正統的アプローチはcytonemeの形成を阻害してやって、モルフォゲンの伝達に対する影響を検討することであろう。今回の結果に従うとDppシグナルを遮断することでcytonemeを減らすことが出来る。しかしDppを遮断してしまってはもはやモルフォゲンの伝達への評価は困難になってしまう。
そう。著者はDppに、cytonemeの形成をになう機能と、cytonemeが果たす機能との二重の役割を持たせることで、この魅力的な仮説の実証を困難にすると主に、反証をも困難な論理の袋小路に落とし込んでいたといえます。
機能的な説明が不足した概念を提唱する論文は私の好みではない。そして今回の論文も前回の仕事をきっちり整理した上で、更に後に続くべき研究の道標であってほしかった。証明も反証も困難な論理の袋小路に入った上で、新たな脱出の活路を見いだす勇敢な*1研究者がどれくらいいるものだろうか?
*1:無謀な?