二股 その2

 寝ながらもう一度考えた。結果は2点にまとめられる。

  1. 細胞外から与えられたEn2はtemporal もしくは nasal由来の網膜axonの選択的な反応(反発vs誘因)を引き起こす。
  2. En2は蛋白合成を誘起する。しかしtemporal-nasalの選択性はない。

 このEn2による二つの反応に因果関係はあるのだろうか?鍵となる実験は蛋白質合成を阻害した時のaxonの応答を見ることだ。2種類の阻害剤(rapamysin, anisomysin)の存在化ではaxonはEn2を無視する。データにはaxonの伸長度への効果が示されていないのが気になる。もし伸長を阻害しないでガイダンスが変化する条件で実験が行われていたのならEn2による蛋白合成阻害はガイダンスに必要とされるという議論は成立することになる。しかしそれでも選択性の問題は解決しない。

 私にとってこの話をまだ受け入れ難い理由は浮気を許さないなどという感情的なものだけではない。細胞の個性は細胞特異的に発現する転写因子の作用で決定されるという発生学の根本的なパラダイムを揺るがす可能性があるからだ。転写因子は核内に濃縮して細胞自立的に働くことで隣接した細胞同士が異なる個性を維持することを可能にする。そんな転写因子が隣に移動してしまったら細胞自立性は維持できないことにもなりうるのだ。もちろんこんなケースはEn2などに限られたケースとして処理すれば良いのだが釈然とできないのだ。