エピローグ

J Biochem (Tokyo). 2003 Feb;133(2):155-8.
Discovery and prospect of protein kinase C research: epilogue.

Nishizuka Y.

 西塚泰美先生はprotein kinase Cと脂質シグナリング機構の発見で高名な方だ。昨日から行われているシンポジウムでは先生の足跡に触れることができた。長大な論文リストを眺めるだけでその業績の偉大さと輩出した人材の豊富さは圧倒的だ。科学的な生産性と人材育成の生産性が両立した良い例なのだろう。上記の論文は西塚先生の212番目の論文だ。
 この論文はまた先生の最後の論文で2004年11月に亡くなられる1年半前に書かれた物だ。そのときすでに大学の職は辞されていて研究に関する書き物は最後、と決意されてのことなのだろう。自ら引き際を心得ておられたということか。出だしの文章を読むと鳥肌が立って来る。自分の研究者としての歴史の幕を引く儀式として蛋白質リン酸化の研究の歴史から書き残しておこうという気概が感じられるのだ。

 もちろんその後も活躍されており、2004年4月にセミナーをして頂いた。

タイトルが、

蛋白質燐酸反応の研究−その伝承と発展−」

 何とも格調ある題ではないか。非常に丁寧に準備された講演で、生化学の歴史を最初からひもとき、重要な貢献のある研究者の名前は丁重にそらんじて見せてくださった。ご自分の研究をシグナル伝達研究全般の中で客観的に、控えめに位置づけて語られていた。正確かつ厳格な典型的な生化学者だ。セミナーの後で夕食をご一緒させて頂いた経験は貴重だ。

 脂質シグナリングの発見となる論文がこれだ。

J. Biol. Chem., Vol. 257, Issue 13, 7847-7851, 07, 1982

Direct activation of calcium-activated, phospholipid-dependent protein kinase by tumor-promoting phorbol esters

M Castagna, Y Takai, K Kaibuchi, K Sano, U Kikkawa and Y Nishizuka

この研究に限らずほとんどがJBCやBBRCに発表されている。良い研究を着々と積み重ねることで高い評価につながる、ということを肝に銘じなければいけない。格式の高いサイエンスとは何か、を改めて考えさせられる。