薔薇の名前

薔薇の名前〈上〉

薔薇の名前〈上〉

 この作品、発刊当時は関心がなかったのだが「このミステリーがすごい」で高い評価がありいつかは読みたいと思っていた。しかし中世ヨーロッパの時代を背景としたお話で、難解な構成で名高い。手を出しそびれていた。
 そんな時にダヴィンチ・コードを読んでキリスト教ものに対する自分に中でのハードルが下がった事を機会に購入した。

 読み出しはスローで敷居が高い。細かいフォントで延々と書かれた本の構成、なじみがない登場人物、難解な時代背景の説明で読者に忍耐を要求する。ここからしてベストセラーをねらった並の大衆小説とは違う。我慢してついてこれる読者だけを対象にしているのだ。話の筋は、ある特命を帯びた僧侶ウィリアムとその弟子アドソが曰くありげな僧院を訪れる。そこで僧院長から殺人事件の解決を依頼されるがそれは連続殺人事件に発展し・・・。

 結果は・・・。中世ヨーロッパのキリスト教を取り巻く宗教論争、セクト争い、女性を悪魔と位置づける教義、宗教裁判、など聞き慣れないが、しかし現代西欧人の価値観の形成に大きな影響を持った時代のうねりを感じることが出来る。その背景を元に推理小説と凝った人物描写の名がさえ渡る傑作だ。

 映画化を予定して構成されたダヴィンチ・コードのプロットが果てしなく陳腐に見えるほどの優れた作品だった。