薔薇の名前 映画版

薔薇の名前 特別版 [DVD]

薔薇の名前 特別版 [DVD]

 その後映画版があることを知る。DVDで発売されると聞いて発売日にタワーレコードで購入して早速鑑賞。この作品は舞台装置、衣装などがかなり凝った時代考証に基づいた重厚な作りで、登場人物の風貌も丁寧なメークで奇怪な印象ながら原作のイメージを生かす工夫が成されている。ウィリアムを演じたショーン・コネリーはみごと。この人は初代007/ジェームズ・ボンドを演じて大当たりした後に、薄くなった頭部を露わにした中年役で第二の大当たり。この映画はその絶頂期に撮られたものだ。アドソ役のクリスチャン・スレーターが若々しい。「村の娘」に童貞を奪われてしまうシーンはカメラの冷たい視線にさらされながら怯える表情が何ともいえない・・・・。

 映画を観賞後、改めて原作を読み直した。映像化されたために初めて理解できたシーンも多かった。しかし2時間余りの映画に収めるためか、また複雑すぎるプロットや背景説明が難解なためかストーリーが端折られたり改変されているところも多く見られた。「薔薇」にたとえられた唯一の女性の登場人物である「村の娘」の運命が書き換えられていたのはストーリーに色を添えるためだったのだろうか。

 DVDの巻末に原作者ウンベルト・エーコのインタビューが入っている。その中で" The book is my baby. The film is his baby."と述べているところが印象的だ。映像化された作品は自分の手を離れて監督の作品になった、と述べているのだ。本の原作者は映像化されたものを見て自分の意図を離れた部分を見つけて少なからず落胆するものだろう。それを予期してエーコは"His baby"と突き放すことで自分に折り合いをつけたのだと思う。また原作の世界は映像化では再現し得ないとの自身があるのだと思う。確かに映画の出来は素晴らしいが、それは原作を補完し、原作の価値を高めるための地位を超えるものではなかったと思う。

 ジブリゲド戦記のアニメの評価に関して原作者がわざわざ「自分の意図とは異なる」と言ったコメントを出して話題になっていた。周囲の反応が著者のグウィンに集まり、また映画制作者も彼女のコメントを利用する行為にでたために堪らず出したコメントのようではある。しかし映画化の権利を売った著者が映画の出来に対してコメントを出すのはルール違反だ。ウンベルト・エーコはこの軋轢を避けるための自らを映画から離して置いたのだろう。