ハンニバル ライジング

ハンニバル・ライジング 上巻 (新潮文庫)

ハンニバル・ライジング 上巻 (新潮文庫)

 レツド・ドラゴン〈上〉 (ハヤカワ文庫NV)以来、読み継いできているハンニバル・レクター博士の最新刊。いったん気になると怖いもの見たさで読んで、映画も見ないではおられない麻薬のような作品。知性と狂気が並立するこの希有なキャラクターを創造した作者のトマスハリスは寡作でほとんどレクターものしか出版されてない。凄いです。怖いです。でもまた映画も見てしまうんだろうな。

 以下ネタバレ注意
 この作品はハンニバル・レクターの生い立ちを描いて怪物的殺人者誕生の裏話で、前三作にあったほどの謎の深さとプロットの複雑さは感じられなかった。トマスハリスがレクター博士のファンのために書き下ろしたいわば「レクター外伝」と言うべきもの。ファンとしては読まざるを得ないのだが前作に比べれば衝撃度は落ちる。寡作なだけにもう少し本格的なものを期待した人には物足りないだろう。また10年待たなくてはならないのだろうか。この分量で文庫2冊ではお買い得感は薄れる。原作出版から日をおかず日本語訳と映画とが出た。映画化を予定して書かれた作品は得てして一気に話を展開させてしまい、読者にじっくり考えさせる暇を与えない傾向がある。その危ない道に作者が足を踏み入れてしまったのが今回の作品だ。改めて前作を読み直して見るべきと思いました。