女性が語る女性科学者の問題

http://www.current-biology.com/content/article/fulltext?uid=PIIS0960982208000997
Women in science ― passion and prejudice
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科学研究に関わる女性の割合は大学院生の数を見れば確実に上昇している。生命科学では更に比率は高いだろう。しかし学生 ー> 大学院 ー> ポスドク ー> PIと進むに従ってその割合は減ってくる。出産に伴う対策についてはすでに、保育所、妊娠・出産に伴う休業の保証などが議論されている。しかしながら議論が建前だけになって、総論賛成だけで実効性が追いつかない事も現実には多いだろう。もちろん私はもう一つの性である女性に対して大いに憧れ尊敬するものだが、その一方で理解しがたい闇も感じる。だからこそ距離を置いて接する事になる。男女を同等に扱うべきだとの意見はまったく正論なのだが、男性でも人によって扱いを変えるような私には女性でも均一な扱い、と言うことは難しい。

 このエッセイは科学者としての頂点を極めた女性、Christiani Nusslein-Volhardがこれまでのキャリアを振り返って、女性に関わる特有の事情を女性の側から分析して、「こうした扱いをすべきであった」、「こんな事にムカついた」という経験談を述べている貴重な記事だ。私が新鮮に感じた視点について触れておく。

1. リーダーシップ

I went to an excellent girls' high school with devoted teachers and a focus on science. At this school, I never had the feeling of not being taken seriously in my attempts at understanding science; moreover, gender differences and competition with males weren't an issue at that time. Such single sex schools hardly exist anymore, which is probably a mistake as for me this environment was very important and provided a strong support for my early determination to pursue a scientific career.

 研究室をオーガナイズするにはリーダーシップが必要だ。そのための素養は大学院生・ポスドクとしてラボに来る前にすでに決まっている事が多い。すでに20歳代半ばなので当たり前のことだ。なので十代の頃にどれほどリーダーシップを養う訓練が出来ているかが鍵だ。Nusslein-Volhardは女子の学校にいたことで男子と張り合う事を意識せずに意見を主張することと、人を動かすことを学んだのだろう。別の女性PIからも同じ意見を聞いた。男女共学は別の性へのとの接し方を学ぶよい機会なのだが、場合によっては女性の自立心を養う機会を減じていたのかもしれない。多様な教育の機会を用意すべきと言うことに落ち着くのだろう。

2.性差

It is not a matter of skills or talent, but according to my observations the strengths, aims and interests of women differ from those of many of their male contemporaries, at least on average.

 物事への興味の持ち方とアプローチには概して男女間で違いがある。当たり前の事ながらこれを男性が言うと物議を醸す。性差を性差別の口実にしない配慮が必要。


3.信頼と批判

Most important of all, the lack of confidence and trust by supervisors or deans of faculty, as I have experienced it, can be very inhibitory. At the same time, I am convinced that care must be taken to not shield women from just and fair criticism ― the kind of pressure and challenge that every scientist needs in order to successfully develop her or his career. Well intended protection, which also often means taking away important opportunities to build up your profile, can be as harmful as open hostility. A good rule of practice is to mentally go through a given case and ask if the same expectations and questions would also be applicable to a male scientist.

 女性に対して男性に対するものと同等に信頼を寄せて、同等の責任を求めよ。これはとても難しい。仕事を依頼する時、その人が引き受ける事の出来る責任とストレスのリミットを知った上で能力を最大限引き出す指示の出し方が望ましい。男性ならばある程度その人のリミットを推測する事が出来ると思っているのだが、女性の場合そこの判断が難しい。例えば妊娠、子育てをしている女性に対してどれほどの責任と求めればいいのか? 結局本人に出来る範囲でやってもらう以上の指示はできない。リミットを超えた要求を出して人材をつぶしてしまうことをとても恐れるのだ。なので自ら限界を押し上げてどんどん伸びていける人は良いが、与えられた範囲で仕事をこなす事に満足しているうちに成長が止まってしまう人も多いのだと思う。しかしこれを指導者の責任と言われるのは困る。指導者は自分の与えた枠を超えて伸びてくる才能を邪魔しない事が最低限で、それ以上に背中を押す事は相当の理解と信頼があるまれなケースを除いては難しい。