Predictably Irrational: The Hidden Forces That Shape Our Decisions

Predictably Irrational: The Hidden Forces That Shape Our Decisions

旅行中にロンドン・ヒースロー空港にて購入。ベストセラー書棚の第二位に置かれていたぞ。Behavioral economics---行動経済学というのだろうか---の一般向けの解説書.経済は損得勘定のバランスで決まるものとされているが、実際はその判断は必ずしも合理的な(数理的な)計算でなされるばかりではなく、非合理的な判断が入り込むことが多くある.それが経済の動向を複雑なものにしている.著者は人間がとる非合理的な行動には特定のパターンがあることを読み取り、その非合理性を予測可能は科学の範疇で合理的に説明しようとしている.
 著者は実験科学者であり、本書で述べられている主張はすべてボランティアを対象とした実験の結果に基づいている.実験には、性的興奮は人の判断力をどのように狂わせるか、など「試してガッテン」のアダルト版のようなものも多くあるが実験結果の妥当性は原論文を読んで確認することができる(巻末に引用してある).事前の倫理的な刷り込みが軽微な犯罪行為を防ぐことができるとか、放置してあるものが安価なコーラなら失敬する学生が多いがそれが1ドル札(現金)だと抑制が働く、など多くの事例を挙げて人がおかす倫理的・経済的な間違い(過ち)がどのような背景に左右されるかを説明している.その実験結果に基づいて、ではどのようにするとその間違いを防いで人を良い行動に導くことができるかを論じている.これらの結果は会社が商品を売り込み、国家が民衆を操作する手本にもなることだろう.本書で触れられている企業による消費者の操作はまさにそのような例だ.
 さまざまな思索に満ちた作品だ.日本でも翻訳版が出れば売れること間違いないだろう.とにかく面白く、考えさせられることが満載.