fortune-tellers

MicroRNA expression profiles classify human cancers
Nature 435, 834-838 (09 Jun 2005)

セミナーでこの論文を読んでいたらふとこういったお話が頭に浮かんできた。

 昔ある港町の裏通りを顔色の悪い中年男がとぼとぼと歩いていた。角を曲がるとそこにあった小屋に占い師の老婆がひっそりと座っていた。老婆は男の顔を見ると、

「もしもし。あなたはもしかして体調が悪いのではないかな?良ければ私が占って差し上げましょう」と話しかけた。

男はコホン、と咳払いをすると「実はそうなんですよ。先月から身体がだるくて病院に行こうと思っていたのですがお金がなくていけなかったんです。」と答えた。

「おやそうかい、私はただの占い師ではないんじゃよ。最新式の伝令あーるえぬえーをつかった方法で科学的にあんたの状態を占ってあげるよ。今ならキャンペーン期間中だから只にしてあげるよ。ちょっとあんたの肝の臓を分けてもらうだけなんじゃよ」。老婆はにっこり笑って話しかけた。

男は大変喜んで、「それはありがたい、是非調べてください」と小屋に入っていった。

老婆は眼にもとまらぬ手際の良さで男の肝臓をひとかけらだけ切り取り、小屋の裏に姿を消した。30分すると老婆はバーコードのようなものがいっぱい書かれた紙を手に現れてこういった。

「おやまー。あんたの病気は肝臓癌だね。山の上の病院に行った方がいいよ。私の紹介なら2割まけてくれるからね。なーに、放射線をいっぱい浴びれば元気になるさ。」

男は大変なショックをうけてとぼとぼと歩き出しました。

するとその次の角には身なりのいい老人が立っていてこういった。
「もしもしあなた。顔色が悪いね。なんなら私が診て進ぜよう。わしはこう見えても生物学の教授をしておったんじゃ。あそこの占い師の婆ァになんか言われたようぢゃがそんな時代遅れなものをもの信じてはいかん。わしの占いはまいくろアール・エヌ・エーをつかったもっとも最新式のものぢゃぞ。」

そういうと老人は咳き込む男を無理矢理部屋に引き込むとあっという間に肝臓を盗み取り、部屋の奥に消えていった。

老人が戻って来ると100色の星がちりばめられたフィルムを手にこういった。「あんたの病気は肝臓じゃない。膵臓がいかれておる。これは島の中の病院に行って強い薬をもらうのがよい。」

男はわけがわからなくなり今来た道を戻った。角まで来ると老婆が待っていて、

「あんなじじいの言うことを聞いてはいかん。ならば今度はあんなの胃の臓をみてあげよう」

というなり老婆は唖然としていた男の口をから瞬く間に内視鏡を使って胃壁の細胞を盗み取りました。

−−−以下繰り返す−−−

男がこの通りを10往復もしたころには男はますます青ざめて咳が止まりませんでした。その男を追いかけてきた老人は占い師の老婆に向かって、

「おまえがいい加減な占いばかりするからわしのお客がこんなに弱ってしまったぢゃないか!」

「何をいうとんのや。あんたこそ最新式を売り物に怪しい占いをしておるのは町中で評判じゃ。」

そういうと老人と老婆はメスとはさみを振り回して大げんかを始めました。

そのときです。ひときわ大きな咳をした男は血を吐いて倒れてしまいました。

そこを通りがかった若い看護婦があわてて駆けつけて男の様子を看るとこう叫びました。「呼吸困難で血痰あり、すぐに救急車を呼んでください」。

そういって看護婦は老人と老婆に向かってこういいました。

「あんた達。患者のRNAを盗むことに熱心でこの人の様子なんかみていないでしょ。咳と顔色を見れば呼吸器系を疑うのは当然でしょ!」

しかしそのころにはもう男の息は絶えかかっていたのでした。

経験ある医師の診断が最新の診断法に勝ることはよくあること。技術の力と限界を見極めたうえで技術ににおぼれることは戒めなければいけない。医師の経験を暗黙知と呼びたがる人もいるだろうがそんなたいそうな言葉を使わずとも対象を自分の目でよく見て考えることで真実は現れるものである。