「半落ち (講談社文庫)」再読

 昨日・今日で読み直した。構成の妙に改めて感心。

 梶聡一郎にかかわる人物は警部、検事、新聞記者、弁護士、裁判官、そして刑務官と順次引き継がれる。最初は警察・検察を巡る殺気だった駆け引きでテンションが高いのだが後半に行くに従って家族と介護の問題に入りトーンは静かに沈殿していく。そして最後は刑務所の静かで単調な生活に落ち着いたところで梶が抱えていた謎が解けて穏やかな結末を迎える。

 登場人物の性格を明確に描き分けることで、読者のテンションをうまく盛り上げ、落ち着かせ、コントロールし、救いのあるクライマックスに導く。この采配のうまさが最後のシーンをとても印象的なものにしている。私にはうつむく梶の背後に後光がさしているのが見えた。

 私には裁判官のエピソードがとても印象的だった。堅物の裁判官が大事な判決に際して判断に苦しむ時に、妻に意見を求めたのだ。職務上の案件なので第三者に話すわけにはいかない。そこで最も身近な他人で、信頼の置ける人物として妻を選んだのだと思う。人の迷いがどう救われるかを示すシーンだ。