ua x 菊地成孔

 秋分も過ぎて日没がだいぶと南に下りてきた。日没点が明石海峡を越える頃が晩秋だ。
 そんな季節にふさわしいのがこのアルバムだ、

cure jazz

cure jazz

 UAがジャズを歌うなんて全くの予想外。しかしタワーで発見したこのアルバムは一曲聴いただけで購入を決定した。UAがどんな歌手なのか、これまで二作しか聴いていない私にはまだ図りかねていた。一枚のライブ版
laは彼女が音をはずした演奏なんかも平気で収録していて正直言って気にいらなかった。

 でももう一作のturboはとても気に入っている。傑作だと思う。このCDは国際線の放送で繰り返し聴かされた「リンゴ追分」が耳にこびりついていたからだ。美空ひばりの曲を出すのは並大抵の歌手には大変な事だろう。それをこともなげに歌ってしまう大変な力の持ち主だと思った。もう一点、レゲェ風にアレンジされた曲を自分の物にしてしまう、プロデューサーの意図を汲み取って自分風に取り込むことの出来る適応力に富んだ人なのだろう。

 そこでこのアルバム。様々にアレンジされたジャズの曲を歌いまくるが前半はスタンダードが多く、後半はポップス調が多い。もうすでに数回以上は繰り返し聞いただろうか。なぜに取り憑かれる様に聞けるのか考えてみた。やはり彼女の声だ。良く延びる高音域にはしばしは鳥肌が立つ。また一般的なビブラートを聞かせるジャズ歌手の歌い方でないところが彼女らしく、飽きが来ない。特に"1. Born to be blue', "3. Over the rainbow", "4. Ordinary fool"などがいい。特に3はUAの声が楽器にもなり、歌にもなり、アレンジと伴奏も素晴らしい名作だ。

 菊地成孔の著作の憂鬱と官能を教えた学校は読んでいたのだが彼の音楽作品に触れた事はなかった。タワーで試聴した彼のもう一枚の作品は却下した。でもここでの彼の演奏は良い。ライナーノートで彼がUAのライブのバックをつとめた体験を書いている。ステージを支配するUAの姿を神と形容し、歌う彼女の後ろから見つめた振動する背筋と大臀筋が頭にこびりついてしまった。アルバムでの共演を申し込み、半ばあきらめながら解答を待つ。全面的なコラボレーションで名作をつくりたい、との返答を震えながら聞いた。彼はUAを心底崇拝しているのだなと思う。しかしアルバム製作では菊地が自分の想像力をフルに生かしてUAの魅力を引き出すべく様々な実験を試みてUAもその期待に十二分に応えている。素晴らしい素材に出会った練達のシェフと言った所だ。坪口昌恭のピアノ伴奏もクリアなタッチでとても良い。

 一点難を言うと菊地がボーカルを歌っている9, 10曲目。これはまずかった。菊地さんはサックスを歌わせているのが良いですよ。