Layton Kor

Beyond the Vertical

Beyond the Vertical

アメリカ中西部の岩場へ行くと必ずと言っていいほどレイトン・コアのルートがある。それも初登が多いので最もきれいで理にかなったルート選択になり、"You must climb"と言われる優れたルートばかりだ。コアは1960年代、ボルダーで煉瓦職人出生計を立てながら全米各地を旅して片っ端からルートを開いていった。なので1980年代後半の私のクラシックルート巡りはコアの足跡を辿る旅だった。

 コアの登攀能力と強烈な個性は伝説的だ。アイガーダイレクトの登攀ではアルプスを訪れたコアをハーリンはいきなり新ルートの冬期登攀にリクルートした。コアの登攀技術が際だっていたからだろう。しかしコアはそのとき氷の経験はなくアイガー上部で困難な岩場のピッチを突破した後で氷のセクションで立ち往生してしまったという。そもそも冬のアルプスデビューには厳しすぎるルートで、無茶な話だったのだがその向こう見ずな積極性あってこそ数々の成功を収めたのだろう。

 ハーリンの死はコアにとって相当に堪えたらしく、アイガーの後は徐々にクライミングの熱は冷め、やがてエホバの証人に入信してクライミングは完全にやめてしまった。

 この本は引退後のコアをBob Godfreyが説得しインタビューした内容とコアが保有していた数千枚のスライドを元に作られた。スライドはかなり傷んだものが多かったらしいが印刷を担当した大日本印刷の技術のおかげで見事な色彩の画像がよみがえった。この本は私の宝です。

 コアは少しずつクライミングにも復帰し、80年代おわり頃にはBlack Canyonでの新ルートなどのニュースを耳にした。そして私がコロラドを去る少し前についに遭遇することができた。エルドラドキャニオンで友人とクライミングしていて対岸のルートを若いパートナーに引かれて登る年配の大男がいた。ロープ一杯までのばされ、ランアウトしたピッチを苦労しながら登る人を見ながらこれはコアに違いないと確信した。彼が終了点に到達して確保に入ってから"Good Job, Layton"と声をかけると”Horrible!"と言いながら元気に返事をくれた。

 伝説のクライマーは生き抜いてこそ価値があると思いたい。