杉本博司:様々なる祖型

 私がはじめて杉本博司氏の作品に接したのは国立国際美術館に展示された「音楽のレッスン」だ。カラー版とモノクロ版とがあるが大阪にあるのはモノクロだ。最初この作品を見た時にこれは写真なのか、絵画なのか、わけがわからずとまどった。そして隣にあったのはウィリアム・シェークスピア。これまた肖像画なのか写真なのかがわからないのにモデルの存在感だけが伝わってくる。蝋人形を撮影し、等身大にプリントしたものだと知ったのはだいぶ後のことだった。

 今回の展示は大阪の国立国際美術館が杉本氏のコレクションを増やしたのを期に常設展のフロアの一角に杉本作品11点を展示したものだ。薄暗くかこまれた縦長の広い空間にArchetecureのシリーズ6点とConceptual Form5点が飾られている。入り口側から見るとArchetectureが、反対側から見るとConceptual Formが見渡せる。Conceptual Formはすでに見たものばかりだがArchetectureははじめて見る4点があった。このArchetectureシリーズは様々な程度にフォーカスをずらして建築物を撮影したものだがピンぼけ具合の調節でディテールが消え本質が浮かび上がるという目論見だ。聖ベネディクト教会、とノートルダム・デュ・オー礼拝堂が良かった。片隅にはシェークスピアが見下ろしているという設定だったがこれだけが浮いた感じで、おまけに高い位置に置かれていたのでそばで見ることができない。肖像写真は別の展示室においた方が良かっただろう。

 参観会と出勤の合間であわただしい鑑賞だったが420円はお得だった。